釣った魚に餌をやらない


「遅い」

骸が建物の中から出てくると雲雀が壁に寄りかかっており、骸を見た瞬間にそう言い放ち壁から離れた。

「これでも、すぐに出てきたのですが」

「ふぅん、君案外とろいんだね」

イラッ。

「…突然来る非常識な人に言われたくありませんね」

「連絡先知らないから」

雲雀からの煽りともとれる発言に苛つきながらも返答をするも、雲雀はあっけらかんとしている。

…1週間ぶりに姿を現したかと思えば…。

骸は瞳を細めながら横柄な態度の雲雀を見つめた。

僕に告白をし、挙句の果てに人の事を犯したくせによくもまぁ、1週間も放置出来ますね…。
いや、逆にそのまま関わりが無いほうがよかったか…。
どうせ彼の事です。今日も戦いに来たのでしょう。
あの一件は、おそらく彼の気の迷いだったんでしょうし。









"愛してる"









…。

「ねぇ」

「ッ?!」

1週間前の事を思い出しているとヒョコッと骸の顔を覗き込んできているのか顔が近くにあり、驚いて思わず後ずさってしまう。

「な、んですか…戦うなら付き合いますので、とりあえず待っててください」

「別に、今日はそんなつもりじゃないよ」

「…?ならば、なぜ来たんですか?」

「これ」

戦闘ではなく別の用事と言われ、骸は頭に?を浮かべていると、雲雀は手に持っていた紙袋を骸へと手渡した。
不思議に思いながら骸は受け取り、中を覗いてみるとなにやら高級そうな箱が入っている。

「…これは?」

「チョコレート、君、好きなんでしょ?」

「え…ああ、まぁ…好きですが…」

「それじゃ、用はそれだけだから」

戸惑いながら現状を把握しようとすると雲雀は眠たそうに欠伸をし、骸へと背中を向けてすたすたと歩き始めた。

「は、ちょ、ちょっと待ちなさい!」

雲雀の背中を見てハッとした骸は慌てて雲雀の後を追い、腕を掴んで動きを止める。

「なに?」

「なに?じゃありませんよ
貴方、僕と戦いに来たのではないんですか?」

「さっきも言ったでしょ、それ渡しに来ただけ
それじゃ」

「だから待ちなさいって」

再度歩き出そうとする雲雀を止めると、首を傾げながら体を向けられた。

「貴方、1週間も人の事を放置しておいてよくそのような態度が取れますね」

「あぁ、それは仕事が溜まってて君のことを忘れてたから」

今、"忘れてた"って言いました?
え、人の事を好きとか言っておいて…?

「…ク…フフ…それならば、ずっと忘れてくださってたほうがよかったですね」

抑えようにも抑えられないひくつく口元。
怒りとも悲しさが入り混じったかのような感情が胸の中にうずまいた。

「なに怒ってるんだい?」

「怒っていません
貴方、釣った魚に餌をあげないタイプでしょう?」

「魚釣ったことないから知らない」

「そういう意味ではなくて」

「ならなに?
遠回しに言われてもわからないんだけど
言いたいことあるならはっきり言いなよ」

パシッと腕を掴んでいた骸の腕を振り払い、雲雀は腕を組んで"フンッ"と鼻を鳴らす。

「…確かに、貴方のような方にははっきりと伝えた方がいいかもしれませんね」

しばらくジッと見つめていた骸だったが深いため息をつき、雲雀の横を通り過ぎた。

「どこ行くの」

「ここで立ち話もなんですから場所を変えますよ
といっても行く当てはないのですが」

「そこまで君と話し込む予定はないよ
まだ風紀委員の仕事残ってるし」

「…」

骸は無言で立ち止まり、振り向いてすたすたと雲雀の元へと戻り目の前に立った。

「貴方って人は…」

「なに…って、腕掴むのやめ」









「僕が、貴方と話したいと言っているんです」

「…!」

「僕のことが好きなのであれば、そのくらいの時間取れるでしょう?」

「…」

骸の言葉に雲雀は驚いたように瞳を丸くする。
その表情を見た骸は自分の発言を思い出し、スッと恥ずかしそうに雲雀から視線をそらした。

「…すいませ」

「へぇ、君って案外積極的だね」

2人の間に少し間が空き、骸が言葉を発しようとすると被せるように雲雀が口を開く。

「…積極的って、意味がわからないのですが」

「気が変わった」

「は、ちょっと」

骸が掴んでいた自分の腕をパッと振り払うと、雲雀は骸の手を握りしめて歩き出す。
雲雀の言動が読めずに骸は引っ張られるがままに後をついていく。

「どこへ行くんですか」

「僕の家
話、したいんでしょ?」

「貴方の家…って…」

瞬時に以前の行為が頭を過ぎり、顔に熱が集まる。

「なに赤くなってるの」

「…いえ、なにも
しかし、なぜ突然僕の話にのったんですか」

「君が言ったんだろう?」









「"君のことが好きなら、話す時間くらい取れるでしょう?"ってさ」









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