勘違いから始まる関係


「…ししょー、どーこに行ったんですかねー」

「…」

千種は外の階段に腰掛けながら頬杖をついているフランを横目にジッと黙り込んで立っていた。

昨日、朝起きた時から骸様の姿が見えなかった。
前日の話からして、雲雀恭弥と一緒にいるんだろう。
そう思い、骸様が帰ってくるのをその日は待っていた。

だけど、骸様は帰ってこなかった。
それどころか、夕方になった今も姿をみせない。

「…なぜ」

顎に手を当て考えるも、良い答えが出てこない。
頭に過る、最悪の考えは1つだけ…。    

「…まぁー、一昨日散々死亡フラグ立てまくってましたからねー
今頃、あられもない姿になってるかもー」

千種の考えを読み取ったのかフランが言うと、千種の目つきが少しきつくなる。

「…フラン」

「でもー、帰ってこない、ってことはそーいうことでしょー?
千種さんだって、わかってますよねー」

「…」

返す言葉もない。
フランの言う通りだ。









もしかしたら、骸様は…。









「…あ」

「?」

不意にフランが声を漏らし、立ち上がるとタタタッと小走りをしだした。
千種がフランに目をやると、少し離れたところから骸が歩いてくるのが見える。
フランはそのまま骸の元へと辿り着くと、"ししょー"と呼びながら腰に抱きついた。

「おやおや」

突然抱きついてきたフランに少しよろめきながら抱きとめ、骸はそのまま林檎の被り物へと手を伸ばして優しく撫でる。
その手の体温から、幻術ではなく骸本人だと感じたフランはジッと骸を見上げながら気持ちよさそうに目を細める。
その光景を見て安堵の息を漏らした千種は、ゆっくりと二人へと近づいた。

「骸様」

「ただいま、千種」

声を掛けると、骸はいつもの様に笑みを浮かべ千種の名前を呼ぶ。
その表情に千種は安心したように少し頬を緩ませた。

「少し留守にしてしまいましたね
なにかありましたか?」

「いえ…なにも」

「そうですか、ならばよかった」

「ししょー、どこ行ってたんですかー
心配してたんですよー、千種さんが」

「おい」

「クフフ、そうでしたか…そんなに心配だったんですね…」

「んむむ…」

少し拗ねているかのような口振りでフランは抱きしめる力を微かに強める。
それに気付いた骸は軽く瞳を見開いた後に微笑むとフランの頬へと手を移動させて優しく触れた。
フランはその手に猫のように擦り寄ると、りんごの被り物が猫の被り物へと変わっていき、骸は"くはッ"と吹き出した。

「…ふふ…ッ…はぁ…この件についてはあとで穴埋めします」

スンッ。

「…?」

ツボに入り、少しの間笑っていたが一息つき、骸はフランから手を離して建物へと歩き出した。

「昨日の件については、またあとでお話しましょう
今日はすいませんが、休ませてもらいますね」

「…わかりました
犬達には部屋に寄らないように言っときます」

「えぇ、ありがとうございます…では」

バタン。

骸はそのまま中へと入っていき、扉が閉められる。
フランは骸が入った扉をジッと見つめ、"んー"?と首を傾げて腕組みをした。

「なに」

「いやー…なんかですねー…」

千種が問いかけると首を傾げた状態でフランは千種を見上げる。









「なぁんか、ししょーいい匂いしたなーって」

「…匂いフェチ?」










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