譲れない戦いがここにある
「さっき俺言ったじゃん
ケーキは蓮が好きな奴でメインディッシュは俺の好きな奴にするってよ」
自分の目の前に座った蓮を見てビシッと指差しながらホロホロは言った。
「俺、ケーキより肉系のほうが好きだから」
「ちゃんと野菜も食わんか」
「野菜も食うけど...って、話が逸れた逸れた」
「しかしいいのか?クリスマスと言ったらクリスマスケーキだろう?
俺が選んでしまっても」
なぜか念を押すように蓮は聞いてきてホロホロをジッと見つめている。
「いや、いいって
逆に俺は肉系選ぶしよ」
「...言ったな?」
「しつけぇわ!なんでそんなに聞いてくんの?!
もしかしてなんか企んでますぅ?!」
あまりのしつこさに苛立ちを覚えながらバァンッ!と勢いよく床を叩きながら冗談混じりに聞いてみると蓮はなぜか驚いた表情を浮かべる。
「...なぜわかった」
「...えっ、ちょ、まじで企んでんの?ケーキで?」
蓮からの返答にまさか本当になにか企んでいると思っていなかったホロホロはぽかんとしてしまう。
「待て待て、ケーキで企むことある?ちょいお前の現段階での考え教えて」
「いや、それを言ったら当日の楽しみがなくなるではないか
事前に言って貴様に逃げられるのもよろしくないしな」
「内容次第では逃げること考えるのは当たり前だろーよ
別に肉のほうが好きだけどケーキ食べたくないわけじゃねーからな?」
「安心しろ、そこは安定の生デコを頼んだからな
ちゃんとサンタが乗ってあるものにした」
そう言いながら蓮はケーキ屋のパンフレットを手に取ると自分が選んだ生デコの写真を指差した。
「あっ、普通にうまそう」
「ブッシュ・ド・ノエルと迷ったのだが...」
「あー、あの切り株っぽいやつ?」
「そうだ、ということで迷った挙げ句こちらも頼んでおいた」
「...」
「そんな顔で見るな、どちらも小さめのものを頼んだから食いきれるさ」
「あー、ならよかった
つーか、蓮って甘いもの好きだよな」
「甘いものも辛いものもどちらもいける」
「甘いもの好きって案外可愛いとこあるよなぁ」
「...」
けらけらと笑いながら蓮へと言うとなにやら心外そうな表情を浮かべながらホロホロを見つめ出す。
「食の好みに可愛いもなにもあるか」
「そうか?なんか甘いもの好き=可愛いって感じすんだけど」
「しかし、貴様も可愛らしいところはあるだろう?」
「はぁん?俺はどう見てもかっこいいだろー?」
"ドヤァ"と効果音がつきそうなほどのドヤ顔を晒しているホロホロへと顔を近付けて頬へと手を伸ばすと優しく撫で始める。
「お、おぉ?なんだよ」
突然の行動に戸惑いながらも撫でられる感触に悪い気はしないのか、口許に笑みを浮かべながらその手にすり寄り始めた。
そんなホロホロの様子を見た蓮は"これのどこがかっこいいのだろうか"と疑問に思いながら頬を撫で続ける。
「...それで、貴様はなにが食べたいのだ?まさかクリスマスまでジンギスカンではあるまいな」
「いんやー、そこは定番のチキンにしたわ
ジンギスカンはいつでも食えるし?」
「チキンもいつでも食べられるがな」
「ふは、違いねぇや」
蓮の言葉に吹き出してしまい笑いながら答えると、ホロホロはチラリと蓮の顔へと視線を移してへらりと気の抜けた笑みをする。
「なんだ、変な顔をしおって」
「いやー...なんだかんだ言って俺、お前と二人でクリスマス過ごすのとか初めてだし?なんか嬉しいなーって思ってよ」
「...なにを言い出すのかと思えば、普段いつも一緒にいるではないか」
「おっまえ、ムードもへったくれもねーなー!」
「がさつな貴様に言われたくないな」
「にゃにおーう?お前は違うのかよぉ?」
ジトリと見つめながらホロホロは蓮へとぽふりと寄りかかる。蓮はジッと見つめた後にホロホロの額に巻かれているタオルを外してチュッと軽くキスを落とした。
「...まぁ...違うと言えば嘘になるな」
「ふっは、結局お前も一緒じゃんかよ
かっこつけやがってよー」
「うるさい」
「ほんっと、お前も俺の事好きねぇ?」
「それは否定せん」
「まぁ、俺もお前の事好き...ですけど」
「...貴様、自分でいっておいてなにを恥ずかしがっているんだ」
「うるっせぇわ、そこ触れんなよ!」
「まったく...その程度で恥ずかしがっていてはもたんぞ?」
「は?なにがだよ?」
「クリスマスの日に生クリームプレイをするのがだ」
「...お前、冒頭の発言はまさかそれを狙っての事だな?!」
「...秘密にしておこうとしていたのに言ってしまった」
「てか食いもん粗末にすんなよ」
「安心しろ、貴様に塗りたくったクリームは俺が責任を持って舐めてやる」
「あーこれはクリスマス家出不可避だわ
ホロホロ、家出します」
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