迷うことをやめたお前は
「蓮」
「なんだ」
結局いい答えは思い付かずに蓮へと声をかける。
「とりあえず手離してくんね?」
「...」
チラリと未だに捕まれている手首に視線を向けると蓮は察したのかスッと掴んでいた手を離す。
「おらよ」
俺は膝立をして蓮へと向かって両手を差し出す。蓮は俺の行動の意味がわからずに頭に?を浮かべながら首をかしげた。
「なにをしている」
「いや、人肌恋しいって言うからよ...はっきり言ってなにしてやればいいかわからねぇ
...わからねぇから...あー...っと...ハグなんていかが?...なぁんて?」
自分で言っておいてだんだんと恥ずかしさが込み上げてきてしまい、ソーッと蓮から視線をそらしてしまった。
俺は馬鹿か...!!男にこんなこと言われたら流石に引くだろ!
「ハンッ、暑苦しい奴にそのようなことをされたくないわ」
って鼻で笑う蓮が頭に浮かんできたわ。我ながらさぶい事言っちまった...。
明日から俺は話を聞いた奴等から"ホモホロ"とか言われんだろうな。
グッバイ。今までの俺の平穏な日々...。
なにも返事もせずに俺をジィィと見つめてくる蓮の視線が刺さり、心の中で押し寄せてくる後悔から涙が出てくる。
「...ふむ、なるほど」
しばらく俺を見つめていた蓮がポツリと呟くと立ち上がって俺の目の前へとストンと座った。
そして、差し出している俺の片腕を掴むとグイッと引っ張りだす。
「うぉ?!」
バランスを崩した俺は蓮の太ももの上に座らされ、そのまま蓮に抱き締められる形になった。
は...え?
「貴様は少しひんやりとしているのだな...持霊のせいもあるのか?」
蓮の行動についていけずぼけーっとしている俺を他所に蓮はそっと頬に手を伸ばして優しく触れる。
「え...あれ?」
「なんだ」
「いや、お前がのるなんて思わなくてよ...俺の事を罵って明日から俺の名前が"ホモホロ"になるのかと」
「そうか、なら罵ってやればよかったな」
「いややめて!てかよぉ...体格的にお前が上に乗るべきじゃね?違和感がやばいんだけど」
自分よりも小さな蓮の上に乗り、抱き締められている光景に違和感を覚え、"しかもお前より思いから降りるわ"と言いながら降りようとするもなぜかがっちりと蓮に抱き締められて離れることができない。
「ちょ、離せよ」
蓮の肩に手を置いてグググッと押し離そうと声をかけるも一向に離す気配がなくむしろ力が増していく。
「え、あの、おい?」
「...」
「おっま力つえぇなおい!ちびのくせに!!」
「おとなしく抱かれていろ」
「いたいッ!!」
"ちび"という単語に反応をし蓮のトンガリが伸びて俺の顎に突き刺さり痛みから声をあげてしまう。
シュンッといつも通りのトンガリに戻り、俺は痛む顎を涙目になりながら撫でる。
「いってて...どういう仕組みなんだよそれぇ...」
「貴様から提案してきたんだ、おとなしく俺に抱かれていろ」
「...まぁ...お前がいいならいいけどよぉ...」
俺の胸板に頬をくっつけながらジトリと見上げてくる蓮になにも言えずにそのまま抱かれることとなった。
これ、俺も抱き締め返した方がいいんかね?いやでもそんなことしたら蓮殴ってきそうだしな。だけどこの開いている手をどうしたらいいんだか。
手持ち無沙汰な両手をどうしたものかと考えながらチラリと蓮を見てみる。蓮はなにも言わずに俺を抱き締めているままだ。
...なんか、ちっちぇ動物みてぇ。
俺はそっと蓮へと手を伸ばして髪に触れてみる。
あっ、意外にサラサラしてる。まぁ、こいついいとこの坊っちゃんだから良いもの使ってんだろうな。触り心地いい。
誘われるように頭に頬すりをすると気持ちのよさから瞳を細めた。
「おい」
下から声が聞こえて頭から顔を離して顔を向けると蓮がなにか言いたげな表情で見上げている。
「あー、わりぃ?なんか気持ちよくてつい?」
「人の気も知らずに呑気なものだな」
「あん?」
ため息混じりに呆れたような口調で言う蓮の言葉の意図がわからず俺は蓮を見つめたまま首をかしげた。
「んだよ、言いたいことあんならはっきり言えよ」
「貴様に言ったところで貴様の頭で理解できるか...」
「おいこら、俺の事馬鹿にするのもいい加減にしろよ?
おまえの言葉なんてすーぐに理解できっから」
「先ほど俺が言ったことを理解していない感じがしたのだが?」
「そりゃ、さっきのはわかるわけねーじゃん?
言いたいことはちゃんと言った方がいいぞー蓮ちゃーん?」
「その呼び方やめんか、不快だ」
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