迷うことをやめたお前は
シャーマンキング本戦の半ば、今日は試合がなかったチーム・THE・蓮はチョコラブの持霊であるアバさんの指導の元、修行をしていた。
これがまたまたきつくて要領の悪い俺はなんどもなんどもアバさんにお叱りを受ける。
その修行が終わり、チョコラブは早々に"用事がある"と言って小屋の中から出ていってしまい、俺と蓮だけが残された。
「つっっっかれだぁ...」
俺はドサッと部屋の中に腰かけて額に巻いていたタオルをほどくと首にかけて汗を拭った。
「ふんっ、この程度で弱音を吐くなど情けない」
壁に寄りかかり腕を組んで自分を見下ろす蓮に俺はムッとした表情を向ける。
「うるせぇよ、そういうお前だって本当はアバさんの修行についていけてねぇんじゃねーの?」
「戯け、貴様と一緒にするんじゃない
貴様のような柔な鍛え方はしておらん」
「...ちびの癖に」
俺がポツリと小さく悪態をつくと蓮がなにも言わずにスッと近付いていき、俺の顔の横へと蹴りを入れ後ろの壁に穴が開く。
「なにか、言ったか?」
ギロリと俺を睨み付ける蓮の視線から顔をそらし、壁の穴へと目をやると恐る恐る両手をあげる。
「ゴメンナサイ」
「...ふん」
こいつ、俺の顔潰す気?壁穴開いちゃってんだけど?
瞳を細めながら蓮は鼻で笑うと足を退かして俺の隣に腰かける。自分の隣に座る蓮に驚きの眼差しを向けると蓮は横目で俺を見た。
「なんだ」
「いや...俺はもうちょい休んでから行くけどよ
蓮もまだここにいんの?」
「俺が何処に行こうが貴様には関係がないだろう」
「へーへー、そーですねー」
可愛げのない発言なこった。
蓮から視線を外して首にかけていたタオルを床へと置く。
なーんかわかんねぇけど、最近蓮が俺の近くに来るんだよな...この小屋もそんな狭くねぇんだから俺の隣に座ることなくね?
以前とは違う蓮の行動に疑問を抱きながらチラリと蓮を見てみると、蓮も俺を見ていたのかバチッと視線が合う。
「ッ!」
やっべ、見てたのばれたか?
俺は気恥ずかしさから慌てて蓮から顔をそらすと蓮は面白くなさそうな表情を浮かべながら俺の頬をガッと乱暴に掴む。
「うぶッ!」
「おい、なぜそらす」
「な、なんりぇっへ...おまへみへるほとしっはらばかにふんだほ」
「何を言ってるかわからん」
お前のせいだよ、そりゃ。
蓮は頬から手を離し、俺はジリジリと未だに痛みが残る頬を手で覆った。
「おーいてて」
「早く理由を言わんか、馬鹿ホロ」
「いや、理由もなにもよぉ...お前の事見てたのは否定しねぇよ?
だけど、見てんのばれたらお前絶対馬鹿にするか罵るじゃん俺の事」
「そうだな、貴様に見られていい気はせん」
この野郎。
俺は蓮の発言に苛つきながら落ち着くようにと一旦深呼吸をする。
そして、蓮に聞きたかったことを口にした。
「お前さ、最近俺との距離近くね?」
「距離?」
「そそ、距離
なーんか前までは俺との距離はあそこの柱から俺までの距離だったけど今じゃこんなに近い」
俺は自分と対極にある柱を指差し、その後蓮を指差した後指を自分のもとへと移動する。
「そうか?」
特に考えたこともなかったかのような反応を見せる蓮。
「そうだって、どしたのよ蓮ちゃーん?もしかして人肌恋しいお年頃?」
けらけらと笑いからかうような口調で言いながら俺は蓮の頬をツンツンとつつく。
蓮は鬱陶しそうな表情を浮かべながら頬をつつく俺の手首を掴んでジッと見つめ出す。
「お、おう?なんだよ」
俺の言葉を否定して手が出てくるだろうと思っていたのだがそのまま俺の事を見てくる蓮に少し戸惑いながらも声をかける。
「...もしも」
「?」
「もしも、人肌が恋しいと言ったら貴様はどうするんだ」
「...え?」
なにやら真剣な眼差しで問いかけてくる蓮に俺は思わず見つめ返してしまう。
えっ、なにこいつ...本当に俺の言う通り人肌恋しいわけ?
だけどそうだよなぁ、こいつも一応人間だもんな...そういうときがあんのか...。
「うーん...んー...」
蓮を見ながら唸り声をあげて考える。
人肌恋しい時ってどうすりゃいいんだ?誰かと触れあってりゃいいのか?こーいうこと言われたの初めてだからわからねぇ...人肌...人肌...。
足りない頭で考えるもいい答えが見当たらない。
依然として蓮は俺を見て返事を待っている。
...んー...。
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