背中を向けられることが
ピピピッ。
「あ」
「38.6℃、風邪だな」
ベッドに横たわるホロホロの脇に挟まっていた体温計から音が鳴り、それを自分が確認するよりも先に蓮に取り上げられて、体温が確認されてしまう。
その体温計に表示された数字を見て蓮は口にすると、ホロホロは"あー…"と声を漏らした。
「まじかぁ…久々な感じする」
「そうだな、俺が覚えている限りでは久しい
しかし、馬鹿な貴様の事だ
気付かぬうちに熱を出していたことはあるかもしれん」
「うるせぇよ、んぉ」
淡々と人のことを馬鹿にする蓮の言葉に反論をしようとすると、ビタンッと勢いよく額になにかを貼り付けられて驚きから声を漏らしてしまう。
冷たさを感じる額に触れてみると、感触と冷たさからして冷却シートを貼られたのだろうと察した。
「冷てぇ…気持ちいぃ…」
「昨日は日中暑かったが、夜は涼しくなったからな…
気温差でやられたのだろう」
「そうかもしんねぇわ…あー…」
ごろん、とうつ伏せになって顔を伏せながらホロホロは先程と同じように声を漏らす。
久々に熱って…これじゃ、蓮が"絶対動くな"って言いそうだ。
なんも出来やしなくて、なんか勿体ねぇって思っちまう。
「よかったな、今日はなにも予定がなくて
熱以外になにか不調はあるか?」
自分の心中を察してかは分からないが、蓮の手がホロホロへと手を伸ばされてわしゃりと軽く撫でられる。
「…いんや、喉も痛くねぇし、咳も出ねぇ
強いて言うなら、ちょいダルい」
「そうか、他に不調があれば病院に連れて行こうとしたが…
今日は大人しく、家にいることだな」
「…ふは」
案の定、自分が思っていた言葉が出てきて吹き出してしまい、蓮から怪訝そうな表情を向けられる。
「なんだ、その反応」
「いんや、蓮のことだから"絶対動くな"って言われると思っててよ
そんな感じの言葉が出てきたから、つい」
「…"絶対"とは言っていなかろう
そのように言ったら、トイレにも行けないようにするぞ」
「トイレぐらいは、行かせてんくね?」
熱のせいか、いつもよりもぎこちない笑いを浮かべながら告げると、蓮は小さく息を吐いてホロホロの頭をわしゃりと撫でて、腰掛けていたベッドから立ち上がった。
「…まぁ、そういうことだ
軽く食べられるものでも持ってくる」
「…」
自分に背中を向けて一歩踏み出す蓮の姿。
それを見たホロホロは、そっと蓮へと向かって手を伸ばす。
クイッ。
「ッ?」
蓮の服を掴むと、蓮の動きが一瞬止まりホロホロへと顔を向ける。
ホロホロが蓮の顔をゆっくりと見上げると、少し驚いたように目が見開かれていた。
「なんだ?」
「…あー…いや…なんつーか…」
ジッと見つめながら問いかける蓮に、どのように言葉を返したらいいか分からず、未だに服を掴んでいる手に視線を向ける。
「…どっか行っちゃいそうだったから…つい…?」
「…そうか」
口から出てきた言葉を聞き、蓮の瞳が伏せられる。
…やべ、蓮のこと困らせちまう。
「…れ」
「ならば、リビングに布団を敷き直そう」
「えぁ?」
服を掴んでいた手を静かに外しながら、蓮の名前を呼ぼうと口を開く。
すると、蓮はホロホロへと手を伸ばし、その言動に驚きの声をあげた。
「なんだ?」
「いや、なんだって…いいのかよ…?」
少し申し訳無さそうに聞いてみると、ホロホロへと伸ばしていた手が頭へと優しく触れる。
「別に構わん
咳や鼻水が出ていれば感染のリスクはあるが、熱だけだというのならば別に大丈夫だろう
少し待っていろ、リビングに布団を…っと…だめだな…ホロホロ」
「あ?なに…ッうぉ!」
ホロホロの頭に触れていた手を離し、リビングへと向かおうとするもピタリと蓮は動きを止め、ホロホロは名前を呼ばれ返事をする。
すると、蓮はホロホロの腕を掴んで身を寄せてそのまま抱き抱えながら寝室を後にしてリビングへと移動をした。
「ちょ、おま、こういう事する時は事前に許可とっ」
「なにを今さら」
「ッ!」
落ちまいようにと必死に蓮にしがみつきながら抗議をすると、さらりと流しながらソファーの上へとホロホロを優しく降ろし、顔を覗き込みながら頬に触れられる。
「おとなしく待っていろ」
「…」
「布団を取りに行くだけだ、扉も開けておくし、俺がいなくなることはない
だから、安心してここにいろ」
自分を撫でていた手が離れ、蓮が再び寝室へと戻っていく。
その背中を見送りながら、ホロホロはぽふりとソファーに横たわった。
"俺がいなくなることはない"
"だから、安心してここにいろ"
…俺ぁ、どんだけ…。
「…蓮と、離れたくねぇんだよ…」
あー…くそ…。
「…顔…あちぃ…」
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