ロシアンルーレット


「れーん、ロシアンルーレットしね?」

「…は?」

小さめのシュークリームが何個か入った袋を手に持ちながら唐突に提案をしてくるホロホロ。
蓮は食器を洗っていた手を一旦止めながらホロホロを見た。

「いきなりどうした」

「ロシアンルーレットしてぇの
シュークリームに1個だけハズレ入れてさ」

「また唐突に…変な動画に触発でもされたか…
だからあれほど動画を見すぎるなと」

「ちげぇよ、つか子ども扱いすんな
確かに影響は受けたけどよ」

受けてるんじゃないか。

口から出かけたその言葉を蓮はグッと飲み込み、最後のお皿を洗い終えると一息をついて濡れた手をタオルで拭いた。

こやつの場合、いきなりそういう事を言い始めるからな…別に構わないが。
こういう子どもっぽい事をやるのもたまにはよかろう。  

「…いいだろう、付き合ってやる」

「やった!」

蓮が承諾をするとホロホロはパァッと表情を輝かせながら準備をしようとキッチンへと侵入をしお皿を取り始める。
袋を開けてシュークリームをその上に並べていく様子を蓮は眺めた。

そういえば、ハズレを入れると言っていたな…。

「ホロホロ、ハズレはなにを…」

「え、わさび」

ふと気になってホロホロに顔を向けると、ホロホロの手にはわさびのチューブが握られており、もう片方の手でシュークリームを持っているところだった。

「…随分と本格的だな」

「まぁ、蓮が辛いの苦手なの知ってるからそんな入れねぇよ?」

そう言いながらシュークリームの底面にチューブの先端を刺してゆっくりとわさびを注入していく。
その光景に蓮は眉間にシワを寄せた。

「別に辛いものが苦手な訳では無いのだが…どうもわさびは口に合わん」

「あー、確かに唐辛子とかは俺もいけるけどわさびの辛味ーってなるとなんか違うよな
鼻にツーンッてきて」

「おそらく、俺はそれが嫌なんだろうな…ホロホロ」

「ん?」

わさびを入れ終えたホロホロはチューブを冷蔵庫の中へと入れながら蓮を見る。

「俺が見てない間にシャッフルをしてくれ
その後に俺がシャッフルをして何処にあるか分からないようにする」

「お前も結構乗り気だよな」

「やるからには徹底的にだ」

けらりと笑うホロホロに背を向け、終わるのをしばらく待った。

「蓮、できた」

「む…」

後ろから声をかけられ、蓮が体を向けるとホロホロはすでに背中を向けている。
皿に乗せられたシュークリームを見るも、特に表面上違和感はなくどれがわさびいるかも分からない。
適当に場所を入れ替え、ホロホロの肩をトントンッと叩くと"終わった?"と体を向けてきた。

「あぁ、どちらからにする?」

「んー…なら言い出しっぺの俺が先で」

皿の上に乗せられたのは全部で5個。
ホロホロはそのうちの1つを取ると、ヒョイッと口の中へと入れる。

「ん…うまぁ」

「セーフ、ということか…ならこれで」

ホロホロの食べている様子を見た蓮も1つシュークリームを手にし、ジッと見つめてから一口食べる。
中からは甘いカスタードの味しかしない。

「…普通だな」

「おー、中々あたらねぇもんだな」

残るは3つ。
ホロホロは躊躇なくもう1つ手にしてそのまま口の中へ。
これもあたりだったのか、美味しそうに食している。

…残りは2つか。

蓮はジッと2つのシュークリームを眺めながら腕を組んだ。

どちらかが普通のもの、もう片方がわさび…。
ホロホロには悪いが…。

瞳を細めながらしばらく見た後、1つを手にして意を決して口の中へと入れる。

「…む?」

先程のカスタードとは違う。
美味いと言えば美味いのだが…。

「…ホロホロ」

「おん?」

「シュークリームはカスタードだけだったな?」

「ん、そうだけど?」

味に違和感を覚えてホロホロに問いかけるとなにやらにやにやとしている。










「貴様…もしや、はめたな?
わさびではなく、抹茶系の物を入れたか?」










「ふっは、せーかい」

蓮からの問いかけにけたけたと笑いながらホロホロは答え、冷蔵庫から先程閉まっていたわさびのチューブを取り出した。

「こん中に抹茶ソース入れてたんだよ」

「なるほど…これはこれでうまい」

「あ、まじ?なら俺もたーべよ」

そう言いながら最後の1つを手にしてわさびチューブをシュークリームの底面に刺して中へと注入し、パクッと一口でホロホロは食べた。

…食べたのだが…。

「…ッ…!!」

「ホロホロ?」 

ホロホロの顔がだんだんと赤くなっていき、口を押さえながら勢いよく部屋から出ていってしまった。
蓮が不思議に思いながら先程ホロホロが持っていたわさびチューブを手にしてよく見て察した。

…あぁ…。










「あやつ、入れ替えた物とは別のわさびチューブを使ったか…
こっちは本物じゃないか…」










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