一人、お独り、寂しんぼ


「…なんだ、そんな事か」

ホロホロの言葉に少し驚くも蓮は小さく息を漏らす。

「別に急用で戻るわけではない
ただ、親父がうるさいから少し顔を見せる程度の用件だ
病人を置いてまで行くほどでもない」

「…こんくらいの風邪だったら寝てりゃ治るし、行っても大丈夫だって」

「なんだ、そこまで俺の家族を気にするとは」

「いや…」  

ホロホロは少し考え、だるくなったのかベッドへと横に直った。

「お前が来ないと分かったら、親父さん暴走しねぇかなって」

「そんなもの放っておけばいい
大体、俺もいい年なのにいつまでもべたべたとくっつきおって…子ども離れでもそろそろしてほしいものだ」

「…ふは」

以前実家に戻った時の事を思い出したのか心底嫌そうな表情で言う蓮にホロホロは思わず吹き出してしまう。

「なぜ笑う」

「いや…ごほッ、お前って、なんだかんだ親父さんの事も好きだなぁ、と思って」

「…」

へらりと笑いながら告げると蓮は瞳を丸くし、スッとホロホロの頬へと手を伸ばすとギリギリと頬を掴みだす。

「ゔぇッ、ちょ、ひぇ…いひゃい!」

「病人は病人らしく大人しくしろ」

「んぶぇ」

パッと手を離すとホロホロは掴まれた頬を手で押さえ、弱々しく蓮を睨み上げる。

「病人に手出すなよ」

「貴様がいらん事を言うからだ…まったく
飯は腹に入りそうか?」

「あー…いや、無理
今はあんまし入れたくない」

「そうか、だが薬を飲むにもなにかしら入れておかないといけないだろう?
ゼリーとプリン、どちらがいい?」

「2択は確定なのかよ…ならゼリーがいい、さっぱりしたの」

「分かった、今見てくるから待っていろ」

わしゃりと頭を一撫でした蓮は部屋から出ていきパタンと扉を閉めた。
それを確認したホロホロは大きなため息を漏らして天井を見上げた。

タイミングわりぃな、本当。
今日蓮実家に帰るって言ってたのによー…。
親父さんはともかく、母親と潤さんには会いたかっただろうに。
別に俺、熱出てるけど置いていってもいいのによ、そんなしょっちゅう会いに行ってねぇし。

「ほんっと…あいつ…」

うと…と睡魔がゆっくりと襲ってくる。

そういや、昨日の夜あんま寝れてね…。










「…ふむ、困ったな」

蓮は冷蔵庫をジッと見つめた後、小さく言葉を漏らしてパタンと静かに閉めた。

ゼリーとプリンどちらがいいか、と聞いたのはいいもののよりにもよってどちらも切らしているとは。
しかも、買い出し前で冷蔵庫の物があまりない。

「仕方ない、買い出しに行くか」

そう決めるとホロホロに一声かけようと再度部屋の扉を開けてゆっくりと入っていく。

「ホロホロ、少し買い出しに…」

声をかけるも反応がなく、寝息が小さく聞こえてくる。
"寝たか?"と思いながら顔を覗き込んでみると、頬を赤く染めながら瞳を閉じて眠っているのを確認した。

相当弱っているようだな…これならば、しばらく起きることはあるまい。
少し心配だが、すぐに戻ってくればいいだろう。

「少し行ってくるな」

ホロホロの額に軽くキスを落とすと、起こさないように静かに部屋の扉を閉めた。










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