その背中も愛おしくて


「れーん、今日俺カレー食いたいからカレー作っていい?」

先程まで隣でゲームをしていたホロホロが、"あ"と声を漏らして立ち上がる。
突然何事かと思えば、晩飯の話。
言動に思わず拍子抜けをしてしまう。

「別に構わんが、俺が作るぞ?」

「いや、俺が食いたいから作るんだから別にいいわ
それに、いつも作ってもらってばっかは嫌だし
たまには俺の手料理食わせてやんよ」

俺もつられて立ち上がろうとするとホロホロは手で制止ながらキッチンへと向かっていく。
ビシッと親指を立てながら言う様に、俺はソファーへと再び腰を下ろした。

「ふむ、そうか
ならばお言葉に甘えるとしよう」

「おう、任せとけ
とびきり辛いやつにしてやるから」

「...」

"辛い"が耳に入り、俺はジッと奴を見つめた。なにかを訴えるかのように。
その視線に気づいたホロホロははっとして苦笑いを浮かべる。

「わぁってるよ
蓮、あんま辛いの好きじゃねぇもんな」

「食べれなくはないが、出された場合泣きながら食すことになる」

「それはそれでおもしれぇけど、後が怖いからいい塩梅で作るわ」

そう言ってホロホロは背中を向けて"えーっと、食材はっと"とガサゴソと冷蔵庫の中を探し始めた。

「...」

俺はその背中を眺めながら頬杖をついた。

普段俺が料理をしているからここから奴の背中を見るのは中々新鮮だ。
そもそも、背中自体あまり見ないか...歩くときも隣か、俺が先を歩く。
風呂入るとき...は、一応背中を見るが抱き締めているから後頭部とかになる。
それ以外...それ以外...。










『ッれ...後ろ、から...やめ...』










...いや、それも遠くからではないか。

自分の脳内で再生されるホロホロの霰もない姿を、惜しみながらも手で払い退ける。

「蓮ー、肉たくさん入れていい?」

冷蔵庫から大きめのパックを取り出し、ねだるような口調で問いかけてくる。

「...好きにしろ、そのかわりあとで買いに行くぞ」

「へーい」

俺からの許可を得ると"よっしゃ"と嬉しそうにガッツポーズをし、再び背中を向けられた。

しかしまぁ...表情からでも分かりやすいが、背中から見ても分かりやすいな。
日本の言葉で"男は背中で語れ"なんてものがあるが、今のこいつに一番似合う。
語ってないけれどな。雰囲気ですごい分かる。
どれだけ肉入れたかったんだ、カレーに。
まぁ、可愛いからいいのだが。

「...」

俺はしばらく背中を見つめた後、立ち上がりホロホロの背後へと立つ。
そして、そのまま手を伸ばしてスーッと背中を指でなぞった。

「でぇあ?!っちょ、おまッ、いきなりなにすんだよ!」

驚いたようにホロホロは大きな声をあげ、バッと勢いよく俺の方へと振り向いた...玉ねぎを手に持ちながら。

「包丁持ってたらあぶねぇだろ!」

「案ずるな、それは確認していたからな」

「ったく...邪魔すんならあっち戻ってろよ」

「あぁ...」

「...」

「...」

「...」

「...」










「...あのよぉ、蓮」










「すげぇ見過ぎなんだけど...?!」










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