俺というものがありながら


騒がしかった宴会の部屋から一変し、蓮達は一番奥にある静かな部屋へと入り込んだ。

「蓮、ちょ、いてぇ」

蓮のあとを引きずられるように歩いていたホロホロの口から痛みを訴える言葉が出て蓮は体を向ける。
どうやら、手首を掴んでいた手に力が入りすぎていたらしく、手を離してみるとうっすらと赤い痕が残っていた。

「あぁ、すまな...」

痕に目を落とした後にホロホロへと視線を向けると、なぜかまた蓮から顔を背けて横を向いている。

「...おい、貴様」

「...んだよ」

ジッと見つめながら声をかけるも、ホロホロの視線がこちらに向くことがない。

「ッ...いいかげんにしろ
貴様、なぜ俺の事を避けている!」

蓮はホロホロの胸ぐらを掴むと力任せに壁へと押しやる。
ホロホロの口からは背中をぶつけた痛みからか"いっ..."と小さくくぐもった声が漏れた。

「貴様はあの日、俺の事を受け入れた筈だろう?
それなのに人の事を避けまくりおって...もしや、俺の事をからかって受け入れたわけではあるまいな
そうだとすれば流石の貴様とて容赦はせんぞ」

思わずホロホロを見る目に力が入り、睨み上げてしまう。
そんな蓮の言葉と表情にホロホロはやっと顔を向け困ったような表情を浮かべる。

「別に、そんなつもりじゃねぇよ...ただ...」

「ただ..なんだ」

久々に目を合わせる。
ホロホロは少し頬を赤らめながら自分の片腕で自らの口許を隠した。

「...お前、よくいつも通りに話しかけられるな...俺に」

「...?どういう意味だ?」

自分が思っていた言葉とは違う言葉が発せられ、理解が出来ずに疑問を口に出す。

「いやだって...俺、お前のこと嫌いだなんだーって言ってたんだぞ?
なのにお前と付き合う事関係になっちゃって...なんか...あー...なんつえばいーんだろ...
前と今の自分の気持ちのギャップ?についてけねーの
そのギャップがすごくて蓮と普通に話してぇけど恥ずかしくて...だぁぁぁ...あんま見んなよ...今の俺...すげぇださいから」

ぽつりぽつりと呟くように言った後、両手で自分の顔を隠しながらホロホロは黙りこんでしまった。

は...?
なんだ、こいつは...そんなことで?
そんなことで俺の事を...。










こやつ...。










「おい、ホロホロ」

「...んだ...ッひぇ...」

ホロホロの名前を呼ぶと顔を隠していた手の隙間からちらりとこちらを覗き、小さな悲鳴が聞こえた。

「な、なんだよ...無視したの怒ってんのかよ」

「貴様...ッ...はぁ」

少し怯えたような表情のホロホロを見て言いかけた言葉を飲み込むとそっと奴の背中に手を伸ばして優しく抱き締める。

「ッ...れ、蓮?」

「俺の事が嫌いになったとかそういうことではないんだな?」

蓮の突然の行動にたじろぎながら名前を呼ぶがそれを遮るようにホロホロに問いかける。

「いや、そういう訳じゃねぇよ」

「...そうか、ならばいい
その言葉を聞けただけで今は満足だ」

思わず口から安堵の息が漏れてしまう。

「...お前、もしかして」

「俺は先に戻る」

ホロホロの言葉の先を聞くまいとパッと体を離すとそれだけを言い残してすたすたと歩いて部屋の扉へと手をかけて開ける。

「あ、おいれ」

「ホロホロ」










「今度俺の事を無視してみろ
その時は...容赦はせん」

「は...お...おぉ...?」










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