俺というものがありながら


蓮は布巾を台所で調理をしていた竜から譲り受けて宴会を続けているであろう部屋に戻るため廊下を歩く。

俺の手が濡れていることに疑問を感じた竜にどうしたのかと聞かれ、グラスを片手で割ったと伝えたら"なんだぁ?グラス割るほどホロホロと喧嘩でもしたか?"と笑われた。
まぁ、奴が原因なのは間違いないのだがその時の竜の表情に腹が立ち馬孫刀を投げた俺に落ち度はない。

先程の部屋へと進むにつれて足取りが重く感じ、立ち止まって壁に寄りかかる。

まったく...なぜ俺が奴に振り回されなければいかんのだ。

不意に漏れ出てしまうため息。

俺が宴会に出席する義理はもちろんない。なぜならば先に言ったように後々敵同士になるんだ。そこまで馴れ合う必要がない。
...理由は別にある。










俺とホロホロが恋人同士であるからだ。










なぜ俺と奴がそのような関係になったのかはまぁ...そのうち話すとしよう。
だが恋人同士だから監視をする為に来ているのではない。
付き合い始めてここ数日、奴の様子がおかしい。
俺が話しかけたり近付いたりするとあからさまに避けるのだ。
こちらとしてはあまりいい気にはならない。
なにか奴の行動で分かることがあればと思い今回の宴会に出た。
奴に問いただせばいいのだろうが、その前に俺の前から逃げるので致し方ない。

それにしても...なんなのだ、奴の行動は。
俺にはあのように抱きついたりせんのに葉にはするのか。笑顔なんてものも向けないくせに。
元々の俺達の関係性から仕方がないと言えば仕方がないのだろうがあそこまで扱いの差が激しいと流石の俺もいい気がせん。

「...ここで考え込んでも仕方ないな」

蓮は壁から背中を話すと宴会の部屋の扉を開く。

「おぉ、蓮
どこ行ってたんよ」

扉を開けたことで部屋にいた者の視線が一斉にこちらに注がれ葉が話しかけてくる。

「グラスを割ってしまったので布巾を取りにな」

「え、怪我とか大丈夫か?」

「俺の手がそんな柔なわけなかろう」

葉の言葉に答えながらその隣へと座っているホロホロへ視線を少し向ける。
すると、ちょうど蓮の方を見たのか視線が合う。
ホロホロは視線が合うとソローッと顔を蓮から宙へと移した。

は、こいつ今目があったくせに逸らしたか?

「おいれ...」

その態度に苛つきを覚え、連絡は布巾を葉へと投げ渡すとズカズカとホロホロへと歩みを進める。

「おい、そこの馬鹿」

「...あ、なんだ...ひぇっ」

目の前へと立ちはだかり見下ろすとホロホロの肩がぴくりと跳ね、蓮の顔を見たと同時に小さく悲鳴が漏らされる。
そんな反応にお構いなしに腕を無理矢理掴んで立たせると、問答無用で引きずった。

「ちょ、お、おぉ?!」

ホロホロの口からは驚きと戸惑いが混ざった声が出る。
まわりの奴らの「ホロホロ今度はなにしたんだ?」「蓮ちょっと落ち着け」などの声が聞こえるが関係ない。
蓮は一旦動きを止めて他の奴らに顔を向ける。

 
 



 


「少しこいつと話がある
手は出さんから邪魔をするな」


 






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