一人の時間


「ホロホロー、いったい全体どうしたんよ?
うちに来た途端、そんな風になって」

葉は突然家に来たホロホロに向かって声をかけながら腰かける。
ホロホロはクッションに顔を埋めたままなにも話さず反応を見せない様子に"やれやれ"といったように息を吐く。

「別においらはいつでも家に来ていいんだけど蓮が心配するぞー?」

「...朝から蓮...いねぇ」

「え、そうなんか?珍しいな、蓮がホロホロ置いてこんな時間までいねぇって...」

そこまで言いかけると"あれ、でも今日って"とふとなにかを思い出したように呟きながらホロホロの頭に手を伸ばして撫で始めた。

「でも、蓮がいないからってそんな落ち込む事はないんじゃないんか?」

「...落ち込んではねぇよ」

「そのわりにはいつもとの落差が激しすぎん?」

「...落ち込んではねぇけど...なんて言ったらいいんだろ」

グリグリと自分の顔をクッションに押し付けた後、ホロホロはため息をつきながら上体を起こして壁に寄りかかる。

「...笑わねぇ?」

「んー?笑わんから大丈夫大丈夫」

へらりと気の抜けたような笑みを浮かべながら横へと移動する葉を見てホロホロは口を開いた。

「...俺さ、昔家の事が原因で小学校の友達とかいねぇし家もあんま好きじゃなかったからさほとんど一人だったんだよ
学校でも一人、遊ぶのも一人
だから、一人の時間がほとんどで少し寂しいとかは思ってたけど慣れちゃってたからそこまでじゃなかったっつーか」

「うんうん」

「今日の朝、蓮が俺の事嫌いになって出ていく夢見て起きちまって
"どうせ夢だ"って思ってたんだけど家の中探しても全然蓮いなくてさ
どっか行くとも聞いてなかったし、散歩でもいってんのかなーって特に気にしてなかったんだよ
だけどさ、夕方になっても蓮帰ってこなくて
俺、蓮と付き合い初めてから一緒の家に住んでなにをするにも蓮が隣にいてさ...今日みたいに一人の時間っていうのが久しぶりだったんだ
...それでさ恥ずかしい話...すげぇ怖くなって
蓮が俺の事大好きなのは知ってんだよ、でも...こんなに長く離れたことねぇから本当に捨てられちまったのかなって思ってさ
なはは、まじで笑えるよな?
今まで何年間も一人でいてなんも思わなかったのに、たった数時間...1日も経ってねぇのに...一人の時間がこんなに怖くなるなんてよ」

「...」

「んで、一人なのが怖くなって葉の家だったらうるさい奴の一人や二人いるかなーって思って来たんだけど
まさか今日に限って葉だけだとはなー
あっ、別に葉だけじゃ物足りねぇってわけじゃないんだぜ?
ただ...今日は賑やかなところにいたかったっていうか」

「...うぇっへっへ」

体育座りをして膝にこつんと額を当てながら話を続けていると葉のいつもの気の抜けたような笑い声が聞こえてきてホロホロは顔を上げた。

「んだよぉ、笑うなって言ったろ?」

「わりぃわりぃ、ホロホロからそういう言葉聞けるのって初めてだから嬉しいんよ」

「...俺が弱ってるのがそんなに嬉しいのかよ」

「そういう意味じゃねーよ?
ホロホロはさ、あんまり自分の事語りがらねぇじゃん?
だから、そういう自分の弱さっていうのを他人に言えるようになったのは蓮のおかげかなぁって」

「...それは、まぁ...もうお前らに隠してもなぁって
でも、蓮いつ戻ってきてくれんのかわからねぇし...俺、本当に捨てられちまったのかなぁ...」

「そんなことねぇから元気だせって
...っていうか、ホロホロ聞いてないんか?」

「へ?」

ぶわぁッと瞳に涙を溜めながら弱気になっているホロホロの頭を再び撫でながらふと不思議に感じたのか葉は首を傾げ出す。

「聞くもなにも、俺はなにも知らな」










パァンッ!!

「「!!」」

二人は突然部屋の襖を開ける音にビクッと体を跳ねさせながら顔を向けた。



  


  


「やはりここにいたか...ホロホロ」

すると、そこには息を切らしながら二人を見下ろす蓮の姿があった。










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