僕の知らない世界の君


「…ルッスーリア、それって…」

ダァァンッ!

「!」

「あら、来たわね」

ルッスーリアの言葉の意図を聞こうとした瞬間、キッチンの扉が勢いよく開かれ、マーモンはバッと勢いよく扉を振り向いた。
そこには、目付きが鋭くなり威圧感を放っているスクアーロの姿。その姿にマーモンは"ひッ"と小さく悲鳴を上げた。
スクアーロはマーモンの姿を捉えると、そのままつかつかと近付いていき、マーモンを軽々と小脇に抱える。

「え、ぁ、え?」

「…ルッスーリア、こいつ借りてくぞぉ」

「いいけれど、今この子10年前の姿なんだから無理強いしちゃだめだからね?」

「無理強いしちゃ…って、な、にするの?」

「…」

「なにか言ってよスクアー…ムギャッ!」

恐る恐る問いかけるもスクアーロはなにも言わず、そのままマーモンを連れてキッチンから出ていく。

「頑張ってねぇ、マーモンちゃん」

背後から聞こえてくるルッスーリアからの応援の言葉を聞きながら、マーモンはチラリとスクアーロを見上げる。

…す、すごい怒ってる…。
部屋から聞こえてきた声の大きさで、ボスにどれだけ切れてるのかなんとなくお察しだったけど…。

「…あの、スクアーロ」

「…」

「…怒ってるのはわかってるけど、僕の話も聞いてほしいな…って」

「…部屋まで待ってろぉ」

スクアーロはチラリとマーモンに視線を向けるとすぐにスッと前を向き、そう答えて再び黙って歩き続ける。
そう言われてしまい、マーモンもキュッと口を閉ざしてしまった。

"お金がとてつもなく大好きな、術士よ"

…術士、ね…。

ルッスーリアから言われた最後の情報を思い出す。

自分と同じ術士で、お金が大好き…なんて、僕とキャラ被りなのもいいところだ。
もしかして、スクアーロは術士が好みなのか?
そういう話を聞いたことはないけど…それに、術士だからといっめ見境なく手を出すなんて彼には有り得ない、絶対に。










…でも…。











スクアーロの歩みが、とある部屋の前で止まり、マーモンはその扉を見る。

部屋の配置が変わっていなければ、ここはスクアーロの部屋のはず…。

そのままスクアーロは扉を開けて部屋の中へと入り、すたすたと寝室の扉も開けて入っていく。
10年前とほとんど変わらない寝室。
スクアーロは脇に抱えていたマーモンをベッドの上に置くと、そのままソッと横に手を置いて迫った。

「ちょ、ちょっとスクアーロ…ムギャッ!」

だんだんと距離を詰めてくるスクアーロに驚きながら肩に手を置こうとすると、そのままバッと勢いよく押し倒され、スクアーロはジッとマーモンを見下ろす。

「ッ…」

現代とは違い、大人っぽさがある顔つきにドキッとしながらあわあわとマーモンは慌てだす。

「ま、待って!」

「!」

スクアーロの顔が近付き、お互いの唇が触れ合いそうになった瞬間、マーモンはバッと自分の唇を手で覆い隠し、触れ合うことを防ぐ。
すると、なぜかスクアーロは驚いたようにマーモンの顔を見つめた。

「…お前」

「ぼ、僕…君が望んでいる奴じゃないんだけど…こういう不誠実な行為はどうかと思うんだけど」

「あ"?」

「だって、この時代の君には、僕以外にもフォローをしてくれる人がいるらしいじゃないか…結構、親密な関係だと聞いたよ
それなのに、そういう人を差し置いて僕にこういうのはよくないんじゃない…?」

「…お前、誰からそういう風に聞いたぁ」

マーモンの言葉に微かに瞳を見開いた後、スクアーロはすぐに眉間に皺を寄せながら問いかけた。

「…え?それは…フラン達だけど…」

「…カス共がぁ、変な誤解生ませるようなこと言いやがって」

「誤解…って…むむっ」

めんどくさそうに小さく舌打ちをしながらスクアーロはそう言ってマーモンの横へと横たわる。
その言葉に不思議そうな表情を浮かべると、スクアーロはグイッとマーモンの腕を掴んで引き寄せて、そのまま抱きしめた。

「ねぇ、スクア」  

「お前が彼奴等になに吹き込まれたのか知らねぇが、俺はお前以外にこういう事をした覚えはねぇ」

優しく後頭部を撫でながらスクアーロはふと瞳を閉じ、マーモンは気持ちよさを覚えながら同様に瞳を閉じ、スクアーロの背中に手を回し抱きしめ返す。

「…でも、ルッスーリアが…頭が切れて、ベルのお世話係的な立ち位置で…君の仕事も手伝ってるお金大好きな術士だって」

「…ぶはッ!」

ルッスーリアから聞いた特徴を伝えると、スクアーロはきょとんとした後に盛大に吹き出して笑い始める。

「な、なんだよいきなり…僕は真剣なんだけど」

「くくッ…お前…それまじで言ってんのかぁ?」

「まじもなにも、そういう風に聞いたから」

「ッはぁ…やべぇ…久々にこんな笑ったわ…腹いてぇ…」

しばらく笑った後、スクアーロは自分の脇腹を片手で押さえながらぽんぽんとマーモンの頭を軽く撫でる。
その様子にマーモンは頬を膨らませながらスクアーロの手をペシッと払い除けた。

「君ね、失礼にも程があるんだけど」

「そんな何人もお前みたいな奴がいてたまるかぁ
お前は1人だけで十分だ」

「ムムッ…」

払われた手を再度頭にのせ、マーモンのフードを脱がすと、額に移動させて前髪を軽く退かしながら額にキスを落とす。
マーモンは眩しさから瞳を細めていたが、キスをされると目を見開いた後にススッと恥ずかしげに視線を逸らした。

「…僕の勘違いだったって事か
余計な嫉妬をしてしまったね…」

「嫉妬だぁ?お前んな事してたのか?」

「いやまぁ…こ、この話は置いておいて
君は僕に用があってここに連れてきたんじゃないのかい?」

「あ?…あ"ー…いや」

話を逸らそうとマーモンがふと思い出したように質問すると、スクアーロは言葉を言い淀ませる。

「ムム、なにさ
人の事を攫っといて、実は何もありません、じゃ済まされないよ」

「…」

「ねぇ、黙ってないで早く言ってよ」

「いや、こればかりは止めとくわぁ
過去の俺が騒ぎそうだからな」

「騒ぎそうって、同じ僕だろう?
第一、何をしようと…」

"誰かさんがフォローしてくれるおかげで"

ふとフランの言葉を思い出す。

確か、そんな事を言っていたよな…フォロー…フォローって何をしてたんだろうか。
怒り狂ったスクアーロのフォロー…落ち着かせるってことだよな…それなのに、過去の僕には任せられなくて、10年後の僕には出来ること…。

「とりあえず、お前は元の時代に戻れるまで他の部下にバレないように囲っとい…」

そう言いながら上体を起こすスクアーロの腰にマーモンはギュッと抱きつくと、スクアーロは目を丸くしながら見下ろした。

「う"ぉぉい、マーモン」

「…スクアーロ」

「なんだぁ?」










「…僕が…癒やしてあげようか」

「…あ"?」










8/11ページ
スキ