僕の知らない世界の君
「ねぇ、ルッスーリア」
キッチンへと着き、冷ましていたクッキーをお皿に移すルッスーリアにマーモンは声をかけた。
「なぁに?」
「いや…さっきのスクアーロの話なんだけど」
「あぁ…10年前に比べてキレやすくなったって話?
本当、困ったものよねぇ」
「それもそうなんだけどさ」
「?」
少し歯切れが悪そうにマーモンは口を開く。
「…さっきフランが言っていた、スクアーロをフォローしてくれてる人って…一体どんな人なのかなって思ってね」
「…」
「僕がいる現代では、そういう人見たことないからさ
もしかしてこの10年間に新しく入った人なのかと思って、少し気になって」
「…うふふ、そうねぇ…」
マーモンの言葉にきょとんとした後、ルッスーリアは微笑みながらマーモンに1枚のクッキーを差し出し"食べる?"と聞くと、マーモンはそれを手に取り、一口食べてみる。
仄かに甘く、さくさくとした食感。
10年前と同じ味に少し安心感を覚えた。
「…おいしい」
「お口に合ってるようでよかったわぁ
…その子はね、身体が小さいけれど人一倍強欲な子で」
クッキーの感想を聞いたルッスーリアは嬉しそうに洗い物をシンクへと置き、洗いながら言葉を続ける。
「幹部の中でもとても頭が切れて、ベルちゃんとも相性がよくて…強いて言うならお世話係かしら?」
ベルと相性がいい…ということはフラン?
でも、さっき見てた感じは仲が良いとかそういうのでは無さそうだったけど。
「ほら、ボスって書類整理とかしないじゃない?
だからスクアーロにその仕事が回されちゃうんだけど、その子はそういう仕事もやってくれるのよ
スクアーロ、いつもその子のおかげで助かってるって、いつも言ってるの」
「…へぇ…」
そういう子が新たに入ってるんだ…物好きな奴もいたものだね…。
…でも、そうなると…。
「…んふふ、そんなお顔しないでマーモンちゃん」
「ム、そんな顔ってどんな顔さ」
「そんな膨れっ面したら可愛いお顔が台無しよ?
はい、ココアも飲んで?」
いつの間にか作っていたのか調理台の上にコトッとマグカップに入ったココアを差し出すルッスーリア。
「…顔に出てた?」
「えぇ、ものすごくね」
ズッとココアを一口啜ると、優しげな甘さが身体中に染み渡り、ほっと一息つく。
「…ルッスーリア」
「んー?」
「…少し、僕の汚い部分を見せてしまうけど…聞いてくれる?」
「…いいわよ?あ、でも粘写したりはだめよ?衛生上よくないから」
「しないよ、それは」
両手でバツ印を作るルッスーリアを見てマーモンは息を吐きながらマグカップを両手で包み込んでジッとココアを見つめる。
「…君がさっき言っていた、スクアーロをフォローしてくれている人に対してすごい、嫉妬をしてしまっているんだ」
「…嫉妬?」
「あぁ、だって僕が10年前にしていた事をその人にとられてしまって…それで、スクアーロもその人に心を許している
そんなの、嫉妬しない、なんて方が無理な話だ
僕ね、10年後の世界に来てからスクアーロがどんな人になっていて、どんな生活をしているのかすごい興味があったんだ…未来の事を先読みするなんてこと、あまりしたくはないけれど…彼の事が知りたくてね
それに、僕との関係が続いているのかも気になってた
…けど…むむむ…難しいな…僕以外に心を許してる事は悪いことではない
むしろ、それで彼の仕事が減るのはいいことだし…でも…やっぱり…」
マーモンは言いたいことがうまくまとまらず、"うーん"と何度も唸り、困ったような表情を浮かべた。
「…やっぱり嫉妬だね、僕以外の人とそんなに親密になって欲しくなかったなぁ…」
「…ふふ、そんなにスクアーロの事、大好きなのね」
話を終えたマーモンをルッスーリアは微笑ましそうに眺めており、その視線に気付いてマーモンはスッとルッスーリアから顔を逸らし残りのココアを飲み干した。
「ぷは…それはまぁ…そうだけど
そもそも彼も薄情な奴だな、僕がいるのに他の奴とそんなに親密になるなんて」
「そんなマーモンちゃんに、最後の情報をあげるわ」
ルッスーリアは空になったマグカップを手に取り、自分の唇に人差し指を当てる。
「…最後の情報?」
「えぇ、これを言えばいくら鈍感な貴方でもわかるでしょう?
その子はね…」
「お金がとてつもなく大好きな、術士よ」
→
