せっかくならばお揃いに
「マーモン」
「…」
「おい、マーモンってば」
「…むむ」
僕の名前を呼ぶ声がする。
マーモンはうっすらと目を開けながらごしごしと目をこすり、目の前にひょこっとベルの顔が現れたのを見て周りを見渡した。
やばい、寝てた…。
最近、夜の任務が多かったから…。
「ごめん、終わったの?」
「終わったから起こしたんだよ
人に頼んでおいて寝てんなよ、ったく」
「君が静かに切るからついね…」
軽く伸びをしながら下を見てみると、切られた髪の毛がまばらになって落ちているのが視界に入る。
その髪の量からして、結構な長さが切られたことがわかった。目がだんだんと冴えてきて気付いたが、寝る前と今とでは髪の重さが違い、うなじ辺りもスースーと風を感じて涼しげに感じた。
「結構切ったね、ベル」
「まぁね、前髪はどうせ自分で切れるだろうから切ってねぇよ
あとは自分でお好きにって感じ」
「そうだね、前髪はそんなに切る予定なかったから助かったきも
どんな出来栄えか鏡で見てくる」
「へーい」
「…?」
…にやにやと笑うベルが気にかかるが、とりあえずどうなってるのか見てみよう。
椅子から立ち上がり、軽く服についた髪の毛を払った後に洗面所へと向かった。
さて、どんなものなのか…あまりにもひどい様なら慰謝料請求してやる。
洗面所の扉を開けて、中へと入り備え付けの鏡に映った自分の姿を見てみる。
「は…え…」
耳まで軽くかかった横髪。後ろ髪は短く…。
まるで、ベルの髪型を模したものとなっていた。
「ッ…ちょっとベル!」
「ししッ」
しばらく鏡に映った自分とにらめっこをした後にマーモンは慌てて洗面所から出るとベルの元へと向かった。
ベルはそんな慌てたような姿のマーモンを見ていつものように笑うだけ。
「王子の傑作、すごくね?」
「すごいとかそういう話じゃなくて…なんでよりにもよって君と同じ髪型なのさ!
もっとこう、他にもやりようがあっただろう?」
「お前が俺に任せるって言ったんじゃん」
「言ったけど、言ったけども…それとこれとは話が別なわけで…!
まさか君と同じにされるとは思わなかったんだけど!」
「王子さー、結構悩んだんだよね
お前にどんな髪型が似合うのかってさ」
目の前に立つマーモンの横髪を指ですくい上げ、顔を近づけるとその髪にチュッと軽くキスを落とす。
その行動にマーモンはピクッと小さく身体を跳ねさせながらベルへと視線を向けた。
「でも、どーんな髪型考えても嫌に感じてさ
それなら、王子と同じにしちゃえば問題解決ー的な?」
「…意味がわからないよ、まったく」
ベルの言葉の意味が理解できず、先程までの熱量がどんどん下がっていき、マーモンは小さく息を吐きながらソファーへと腰を下ろした。
「うししッ、お前にはわかんねーよ」
「…まぁ、君と同じと言っても前髪の形は違うから大丈夫か…
でも、自分の姿を見るのに慣れるまでが時間がかかりそう」
「大げさ過ぎじゃね?
そこまで深く考える必要ねーだろ」
「いやだって…」
ドカッと隣に勢いよく座るベルにスッと視線を向けた後にすぐにマーモンは目を逸らした。
「だってなんか…君の姿が脳裏に過ぎりそうで…恥ずかしいじゃないか」
「…」
「ほら、君もう任務行く時間じゃないかい?」
マーモンは立ち上がりながら時計を指差すと、ベルはつられて時計へと目を向ける。
「うわ、もうこんな時間じゃん」
「あんまり遅いとスクアーロにどやされるよ」
「へーい…っと、マーモン」
「今度は何」
ベルも同様に立ち上がるとくるりとマーモンに身体を向けて前髪に軽くキスを落とした。
目を見開きながらベルの顔を見上げると、ベルは満足そうな表情でマーモンを見つめている。
「王子と同じ髪型、すげぇ似合ってる」
「…ッ…さっさと任務行けよ、馬鹿ベル」
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