せっかくならばお揃いに


「王子、今から任務なんだけど」

マーモンの部屋へと連れてこられたベルは部屋に敷かれたシートとその上にある椅子を見て壁に寄りかかりながら口を開いた。

「あと2時間後にアジトから出ていくんだろう?
ならまだまだ時間はあるじゃないか」

フードを外すとマーモンのいつもは見られない素顔が露わになる。
大きな藍色の瞳はベルをジッと見つめ、ローブを脱ぐ為に一度視線が外された。

「いつも君の我儘に付き合ってあげてるんだ
このくらいしてくれてもいいだろう?」

「つーか、なんでいきなり髪切るわけ?」

ベルはマーモンに近寄り、髪を見つめながら問いかける。
鎖骨にかかる位の長さのある髪。
マーモンの戦術は基本的に超能力と幻術。
自分やルッスーリア、スクアーロのように身体を動かしながら行う戦闘スタイルではないためその位の長さの髪であれば邪魔にはならなさそうだ。
しかも普段、ヘアスタイルにもあまりこだわりを持たなそうなマーモン。

それなのに、なぜいきなり髪を切りたくなったのか。

「別にお前、邪魔とかじゃないんだろ?
それなら切らなくてもいいと思うんだけど」

「うーん、そうなんだけどね…」

「…!」

指先に毛先を絡ませてくるくるといじり始めるマーモンを見て、ベルは数秒間考えた後にピンッとなにかを閃いた。

「ししッ、もしかしてマーモン失恋でもした?」

「失恋って…君、僕の事嫌いにでもなったの?」

「え?んなわけねーじゃん」

「そう、ならその考えは外れだよ、残念だったね」

…さらっと流されたけど、マーモン恥ずかしいこと言ってんの分かってんのかよ。

「ならなおさら意味わかんねぇんだけど
ねぇ、なんでなんで?」

「君もしつこいね…そんなに気になるのかい?」

「いきなり任務前に髪切れって言われてんだからさ、理由ぐらい言ってくれてもよくね?」

「…確かにそうか
でも、本当に特に意味なんてないんだよね
ただ切りたくなった、それだけ」

「ふぅん…」

手に持っていた脱いだローブをハンガーにかけると、マーモンは自分で用意をした椅子へと腰掛けた。

「まぁ、そういうわけで頼むよベル
適当に切ってくれればいいから」

「つーか、なんで王子に頼むわけ?
どっかしらの美容院でも行けばいーのに」

「なんで髪切るためだけに金を使わないといけないのさ、勿体無い
君に頼んだのは、いつもナイフを扱ってるから他の刃物の扱いにも慣れてるかなと思って丁度いいなと」

「別に俺、そういうわけでナイフ使ってねーけど?
それならスクアーロに頼めよ、いつも剣振り回してんだからさ」

「だめだよスクアーロは
下手すれば首まで跳ね飛ばされそう」

「うししッ、なにそれウケる」

「こっちとしては死活問題だよ
ほら、君の任務に行く時間に間に合わなくなっちゃうから早くして」

「王子に対してその態度なんなわけ?」

「明日君、非番だろ?
僕も非番だから明日一緒に出かけてあげるからさ」

「…んー…」

まぁ、しばらく一緒に外出てねーしいっか。

そう思いながらベルは先程自分の部屋で受け取った鋏を手にしてジッとマーモンの髪を見つめて構想を立て始める。

適当って言っても、坊主とかにしたらこいつ流石に切れそうだな。流石に合わなすぎるから最初からするつもりはねーけど。
一番いいのは今の髪型だと思うんだけどな、見慣れてるし。

「なぁなぁ、短くすればいいわけ?」

「うーん、そうだね…だからと言ってルッスやレヴィみたいな髪型はちょっと」

「ならボス位は?」

「第一、あんまり短いのは僕には合わないと思うんだけど」

こいつ、適当とか言いながら注文多過ぎじゃね?

"うーん"と唸りながら指でくるくると器用に鋏を回しだす。

ボスより長くて、それでいて今より短く…。
参考になるような髪型周りにいないな。
スクアーロは長過ぎて論外だし。
ボンゴレの守護者ってなるとー、沢田綱吉ヘアーにしたらボスが切れそうだし、獄寺隼人の髪型はなんか王子が嫌だ。
雨と晴れの守護者は短過ぎる。
六道骸…はやめとこ、あいつと同じパイナップルヘアーにしたら今度はマーモンが切れる。
そうなると後はー…雲雀恭弥…んー…却下。
てか、根本的にマーモンが他のやつと同じ髪型ってのが腹立つ。












それなら王子と同じのほうが…。










「…うししッ」

「決まったかい、ベル?」

「決まった決まった、今から切ってくから大人しくしてろよ?」

マーモンに声を掛けるとベルはマーモンの後ろ髪を軽く持ち上げ、そのまま鋏を入れ始めた。










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