雨雨ちゃぷちゃぶ


「…なんで自分の部屋のお風呂使わないのさ」

結局、マーモンの部屋の風呂に強引に入ってきたベル。
湯船に浸かり、お湯の暖かさで気持ちよさを覚えながらもマーモンは身体を洗っているベルをジトリとした目つきで見ながら皮肉交じりに言う。

「王子、お風呂の湯溜めるの命令し忘れたから
マーモンが連絡してんの思い出してさ、これは使わない手はねぇじゃん?」

マーモンをチラリと見ながらベルは笑みを浮かべ、自分の頭をお湯で濡らしていく。
お湯をかけられ、ぺたんとしてしまった前髪の隙間からベルの瞳が見え隠れする。

「…だからって、僕の部屋に来なくてもいいだろう?
君、いつもシャワーじゃないか」

「流石に雨に濡れて身体冷えてるし、シャワーだけじゃやばくね?
つーか、なんで逆にそんなに嫌がるんだよ
お前がベイビーの時は一緒に入ってやってたじゃん」

「君が僕にちょっかいを出すために勝手に入ってきてたんじゃないか、僕が望んでいたみたいな言い方やめてくれるかい?」

毎回毎回、僕がお風呂に入るタイミングで今回のように現れ、我が物顔で入っていた幼少期の頃のベルを思い出し懐かしさを感じながらもそれ以上に煩わしさを思い出す。

「まったく、16歳のくせに1人で入れないとか…王子様が聞いて呆れるよ」

「うししッ、ちびのお前が湯船に沈まないか見てやってんだよ
むしろ感謝しろよ?」

「…はいはい」

…そういえば、昔はよくベルの頭洗ってあげていたな…。いや、違うな。
"王子の頭、洗わせてやるよ"とか偉そうに言って僕に洗わせてたんだ。
そんなわがままなお子ちゃま王子が大きくなっちゃって…。

「…ベル」

「ん?」

湯船から出て、自分の背後に立つマーモンをベルは不思議そうに見上げて首を傾げた。

「頭、洗ってあげる」

「…ししッ、そんなに洗いたいって言うなら洗わせてやってもいいぜ?」

「うん、洗いたいから洗わせて」

「…」

不意を突かれたかのようにきょとんとするベルを他所に、マーモンはボトルからシャンプーを手のひらに出すとベルの髪につけて優しく洗い始める。

指通りが良いサラサラの髪、昔と変わらないな…。 

わしゃわしゃと洗い続け、泡立ってくるとベルは"ん"と瞳を閉じ、マーモンは"ふふ"と笑みを溢した。

「んだよマーモン、なに笑ってるわけ?」

「いや…小さい頃と変わらないなって思ってね
あの時はくそ生意気で世間を知らないくそ王子だったけど、そこもまた可愛かったなって」

「お前、王子のことくそくそ言い過ぎ」

「それが今や、こんなに大きなくそ王子に…」

「くそに変わりねぇのかよ…ッ!」

マーモンの言葉に苛立ったベルが立ち上がろうとした瞬間にマーモンはシャンプーを洗い流そうとお湯をかけ、それに驚いたベルの動きが止まる。

「てんめ…」

「ほら、動かない
ちゃんと流してあげるから、王子様」

そう言いながらマーモンは淡々と泡を洗い流していき、綺麗になくなると"はい、おしまい"とキュッとシャワーを止めた。
それと同時にベルにガシッと手首を掴まれマーモンはベルを見ると、ベルは口角を引きつらせながらマーモンを見ており、"あ"と嫌な気配を感じた。

「お前、王子のこと散々言いたい放題してくれたじゃん?」

「言いたい放題って…全部本当の事じゃないか」

「ふぅん、本当…本当ねぇ…」

マーモンの言葉を復唱しながらベルは顔をズイッと近付けてマーモンの顔を至近距離で見つめる。
近くで見るベルの瞳はジッとマーモンの顔をとらえていた。

「なんだよ、なにか言いたそうだね」

「お前、昔の王子のこと可愛いって思ってたんだ
あーんだけ、俺のこと邪険にしてたのに?」

「邪険にしてたとは誤解を生む言い方だね
邪険にはしてないさ、ただ君が僕にちょっかいかけてきてめんどうだっただけ」

「はぁん?」

「でもまぁ、流石王子というべきかな
君、幼いながらも顔立ちはよかったからね…黙ってれば、天使みたいな可愛い顔だったよ、顔はね
中身は最悪な悪魔だったけど」

「かっちーん…ならさ」

つらつらと自分に対して悪態をつくマーモンに苛つきながらベルは自分の前髪をガッとかきあげ、マーモンの額に自分の額をコツンとくっつける。
普段は露わになっていないベルの素顔。
それが間近にあることでマーモンの動きはピタリと止まってしまい、その顔を見つめ返す。










「今の王子は、昔の王子に比べてどうよ?」










「…まったく、馬鹿馬鹿しい」

瞳を丸くしながらベルの言葉や動きを見ていたマーモンはフイッと顔をそらしながら呟いた。

「なにが、"今の王子は"さ…
そんなに自分に自信があるようだけど、僕にとって君はいつまで経ってもくそ生意気な可愛い王子だよ」

「マーモン」

「ほら、ベル
早くお風呂に入らないと、君はそのために僕の所に来たんだろう?
僕はもう出るから、あとは君1人でゆっくりと」

「お前さ」

「ッ」

顔をそらしながら言い続け、ベルから離れようとするマーモンをベルはいつもの笑みを浮かべてマーモンの顎を掴んで自分の顔へと向かせた。
その顔は、顔全体が真っ赤になっており、マーモンは悔しそうに眉間に皺を寄せている。










「うししッ、王子かっこいいだろ?」

「…ッ…思い上がるなよ、馬鹿王子…」










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