真っ暗なこの中で


「う"ぉぉい、マーモンよぉ…」

「なんだい、スクアーロ」

部屋に戻って水分補給をマーモンにさせた後、溜まっている書類に手を出そうと椅子に座ったクアーロ。
しかし、我が物顔のように自分の太ももの上へと座るマーモンにスクアーロは声を掛ける。

「書類整理するからちょっと退いてろぉ」

「嫌だよ、勝手に君いなくなったりするし」

「それは悪かったって言っただろが
だからといって、お前の相手ずっとしてるわけにはいかねぇし」

「大丈夫だよ、座ってるだけだからお気になさらず」

なにが大丈夫だってんだ。
こっちが見え辛くて大丈夫じゃねぇんだよ。

涼しげな顔で自分の発言をスルーして呑気に寄りかかってくるマーモンを見て、スクアーロは諦めたように息を吐いた。

しかし、いつもはこんなにくっつきたがらねぇのに、視力がないってだけでそんなに不安になるもんなのか。

ぽふっとマーモンの頭に顎を乗せ、書類を眺めながら考える。

いつもはベルがひっついて2人で行動してるから、そのせいか?
それならベルに任せた方がいいかもしれねぇが…。

「マーモン」

「ム?」

名前を呼ぶとマーモンは顔をスクアーロの方へと向けて不思議そうな表情で見上げた。

「今ならベル帰ってきてるだろうからあいつの所行くか?」

「…君が、ベルに玩具にされることを懸念して僕をここに連れてきたんじゃないか
それなのに、いきなりそう言われるのは困るんだけど」

なにかマーモンの気に触ったのか、先ほどの会話の時とは違い語気に不機嫌さが見られる。

「確かにそうだが、お前がくっついたままだと仕事にならねぇ
お前がなんで俺にくっついてんのかは分からねぇが、くっつきたい相手が誰でもいいんならベルでもー…」

そこまで言うと、マーモンの頬がぷくーっと膨らんでいることに気づき"あ"とスクアーロは声を漏らした。

「…へぇ、君は僕がくっつくのならば誰でもいい
そういう風に思ってるってことかい?」

「そういう意味じゃ…う"ぉぉい、触り過ぎだぁ」

怒りがこもった言い方をしながらマーモンはスクアーロの顔に手を伸ばし、ぺたぺたと顔全体に触れ部位を確認し始める。
その手に煩わしさを覚え止めようとすると、ある程度の場所を確認できたのかマーモンは頬に手を移動させてスッと顔を近づけた。
普段はフードの隙間から見える目は包帯で隠されており、表情がいつも以上に分かりづらい。
しかし、先ほどの言い方と言い態度と言い、なにか怒らせてしまったことは確実なようだ。

「なら君は、僕が今君にしているようにベルにくっついてもいいって捉えてもいいの?」

スクアーロの首筋に頬をつけ、囁くその姿。
少し意地悪そうに口元に笑みを浮かべているマーモンに思わず息を呑んでしまう。

「誰がんなこと言ったぁ、俺はただ」

「別に、僕だって君の邪魔をしたくて君のそばから離れないわけじゃない
ただ…君の姿が見えないと怖くてね」

「怖いだぁ?暗殺部隊幹部のお前が、視力失っただけでそういうとは笑えるな」

「あのね、僕は真剣なんだけど
もう、そういう風に茶化すならいいよ
ベルの所に行ってくるから」

「待てよ」

「ッ」

スクアーロの言い草にふとマーモンは顔をそらし、上から降りようと腰を浮かすとスクアーロは片腕を掴む。
マーモンは少し驚いたように肩を小さく身体を跳ねさせて降りようとした動きを止めた。

「茶化したつもりはねぇ、がそう思わせたんならすまねぇ」

「…いや、僕も言葉が足らなかったからおあいこさ」

謝る姿にきょとんとした後、少し間を開けてからマーモンは再び腰を下ろしながら小さく息を吐く。

「さっき、君がなにも言わずにいなくなっただろう?
普段なら気にする程の事でもないんだけど、さっき言ったように怖くてね…」

「なにが怖いんだぁ?
視力失ってるのなんてたった一時なだけだろ」

「時計が見れないからどれだけの時間が経ったのかわからない
さっき君は20分くらい席を外したけど、僕にとってはその倍以上に感じたのさ
音もなく光もない世界に、ひとりぼっちにいる感覚
それが、思った以上に怖くて…
僕の代理戦の時、僕が他のアルコバレーノと話し合いをしていた時にバミューダ達が強襲かけた事があっただろう?
なんか、僕がなにも知らない間にまた君達になにかあったんじゃないか、と思って居ても立ってもいられなくなって…」

「それはいくらなんでも言いすぎだぁ
第一、このアジトを襲ってくる奴なんて早々いねぇ」

「君がそう思うのも無理はない
僕だって、普段の状態ならこんなことは思わない
…だけど、君が思っている以上に、今の僕のこの真っ暗な世界は…周りに何が起きているのか分からない
だから、怖くて君が僕から離れようとすると心配になるの
君からしたら本当に、くだらないことだと思うけど」

スクアーロの胸板に耳を寄せて心臓の音を聞く。
トクントクン、とリズムよく聞こえてくるその音にマーモンはゆっくりと瞳を閉じた。
その様子を見たスクアーロはマーモンの頭へと手を伸ばし、あやすように優しく撫で始める。

「…仕方ねぇ、目が見えるようになるまでだからな」

「うん…ありがと」

「だが、見えるようになったら整理手伝わせるからなぁ
お前が乗ってると集中ができねぇし、見えづらい」

「なんで僕が乗ってることで集中出来なくなるのさ」

「あ"?そりゃ、お前がいつも以上に密着してくるからだろが
ただでさえお前とこうして触れ合うのも1週間以上ぶりだしな」

「ひッ!」

そう言いながらマーモンの耳へとチュッとリップ音を立てながらキスをすると、ビクッと身体を跳ねさせて高い声をあげる。
マーモンはすかさず自分の両耳を守るように手で隠し、その反応の大きさにスクアーロはきょとんとした。

「なんだぁ、いつにも増して反応いいじゃねぇか」

「あ、あのね!今僕は視力と聴力がない分、他の感覚が鋭くなってるんだ!
その状態でいきなりそんなことしないでくれるかい?!」

顔を真っ赤にし、少し怒ったように言うマーモン。
それを見たスクアーロは"ほぉん…"と声を漏らし、両耳を隠している両手首を掴んで耳からそっと離れさせた。

「むむ、ちょっとなにして」

耳から自分の手が離れ、マーモンが不思議そうに問いかけるとスクアーロは無防備になった耳に顔を近づけてがぶっと甘噛みをする。

「ッあ!お、おいスクアーロ…ひ…や、やめ…」

再びマーモンの口から甲高い声が上がり、吐息を漏らしながらスクアーロの身体に寄りかかる。
その反応を見ながらピチャピチャと唾液を含みながら耳を舐め、スクアーロは瞳を細めた。

…やべぇ。

「はッ…ふ…ッ…」

口を耳から離すとマーモンは呼吸を見出しながら頬を赤く染め、ぐったりとスクアーロに力なく寄りかかった。
それを抱きしめながらスクアーロは眉間に皺を寄せ、マーモンの首筋に顔を埋める。

「ぁ…き、君ね…」

「…」

「…?スクアーロ…?」

「…うるせぇ、黙ってろ」

マーモンに声をかけられるもスクアーロは顔を上げずに言い放ち、マーモンは不服そうにしながらも黙り込んだ。










余計なちょっかいしなきゃよかったぜ…。
怪我人相手に手出せるわけねぇ…くそが。










「ちょっと、スクアーロ…苦しい」

「黙ってろって言ってんだろがぁ」

「えぇ、理不尽…」










6/7ページ
スキ