真っ暗なこの中で


「う"ぉぉい、そっちは終わったかぁマーモン」

とあるアジト。
このアジトの所有者であるファミリーの殲滅をする任務を担ったスクアーロは室内に広がる死体の数々の中に立っていた。
室内を見渡し生き残りがいないことを確認した後、大きな声で近くにいるであろう同行者のマーモンに問いかける。
しかし、返事はなく自分の声が反響した後に部屋の中はシンッと静まり返った。

「…」

返事がねぇ。
まさか、あいつやられたんじゃねぇだろうな?

返事をしないマーモンの姿を探そうと一歩、また一歩と部屋の中を歩いていく。
どうやら、この部屋の中にはいないらしい。
扉を乱暴にダンッと足で蹴破り、廊下へと出る。
廊下にも、見るも無残な姿の死体がそこらかしこに転がっていた。
剣や銃で出来た傷ではないものが目立ち、それがマーモンが始末した者だと察する。

「お"ぉい、マーモン!」

長い廊下を歩き続けると、カタッと小さな物音が聞こえてスクアーロは歩みを止め、聞こえてきたであろう部屋の前で立ち止まった。

生き残り…ってことはなさそうだな。

少し警戒をしながら扉に手をかけてゆっくりと開けてみる。

「そこにいるのは、スクアーロかい?」

部屋の中へと入るとマーモンの声が聞こえてきた。
声のする方へと顔を向けると、扉のすぐ横に壁に寄りかかって座っていた。

「なんだぁ、怪我でもしたか?」

「あぁ、やっぱり君か…無駄に声が大きいからわかりやすい」

「あ"?馬鹿にしてんのか」

「ちょっと手を貸してくれるかい?
今、目が見えてなくてね」

「目が見えねぇだぁ?」

自分の方へとゆっくり手を伸ばすマーモンの言葉にスクアーロはしゃがみ込んでマーモンの顔を覗き込む。
見た感じ、怪我なども特になく異常は見られない。
しかし、至近距離から見ていてもマーモンからの反応が見られないことからするとどうやら目が見えないのは本当のようだ。

「なにがあった」

「閃光弾、けっこう近い距離でやられちゃってね…
おかげで右耳は完全に聞こえてない
左耳が辛うじて聞こえてる感じかな
耳の方はともかく、目は時間が経てば回復するとは思う」

「なに油断してんだぁ…ったく」

「油断してたわけではないんだけどね
ただ、人間死にそうな時ほどなにをするか分からないから…これはちょっと予想外」

「それを油断って言ってんだよ
しかし、目と耳が使えない状態でよく始末できたな」

「幻術で視力と聴覚を補ったから」

「便利なこった、なら今も幻術でなんとかしろぉ」

「そうしたいのは山々だけど、耳についてはどうせ鼓膜が破れてるんだろうしそうなると自然治癒に任せるしかない
君が心臓を無くした時とは訳が違うんだ、自然治癒出来るなら無駄な幻術を使って体力消耗する必要はないしね
それに、スクアーロが僕の事運んでくれればいいだけだし」

「人の事をなんだと思ってんだ…ったく」

「む」

マーモンの発言に明らかに自分を使おうとしているのが見え見えなのが分かり、スクアーロは呆れながらも伸ばされた腕を掴み、そのままマーモンを抱き抱えた。

「おら、俺の首に掴まれ」

「首…」

スクアーロに言われマーモンは手探りで首に抱きつこうとスクアーロに触れる。
ぺたりと胸板に触れ、そこから上へと指を移動させる。
その触り方にスクアーロはくすぐったさを覚えて少し身動ぎをした。

「おい、くすぐってぇ」

「仕方ないだろう、見えないんだから
少し我慢して…」

見えないであろう瞳を細めながら、マーモンは指を鎖骨から首筋にかけて這わせる。
その触れ方に思わずスクアーロは息を呑んでしまう。

「ここが首か…はい、これで大丈夫?」

「う"ぉ?!」

首筋に触れたことで場所が大体わかり、マーモンは首に両腕を回してギュッと抱きついた。
しかし、顔の距離感が掴めないのかスクアーロの顔の前にズイッと顔を近づけてしまいスクアーロが驚いた声を上げた。

「ムム、なにさ」

「お前、わざとやってんのかぁ?!」

「わざとって、なにがだよ…大きな声で話してくれるのはありがたいけど、あまりうるさ過ぎるともう片方の耳も鼓膜破れるからやめて」

「…チッ…あとで覚えてやがれ」

めんどくさそうに言いながら自分の胸板に顔をつけるマーモンにスクアーロは舌打ちをしながら歩き出す。










「お前、ぜってぇ泣かしてやるからなぁ…」

「ムム、なんか言った?」

「言ったけど教えてやらねぇ」










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