お疲れ曜日なその時は


「もしかして、報告書届かないから取りに来たの?
それなら少し待ってて、今から取りに」

「それもあるが、急ぎじゃねぇから気にすんなぁ」

立ち上がろうとするマーモンを制しながら隣のスペースにドカッと音を立てながらスクアーロは腰掛ける。

「そう…なら、お言葉どおりに後で届けるとするよ」

「そうしとけ、どうやら随分とお疲れのようだからなぁ」

「…」

…ばれてる。

バチッ。

「「!」」

マーモンはチラリと横に座るスクアーロを一瞥すると、同様にスクアーロも見ていたのか視線が合い動きが固まった。

「…ふふ」

「…ぶはッ」

数秒見つめ合った後、お互い吹き出し始めてマーモンは小さく笑い声を漏らしながら口を手で押さえだす。

「同じタイミングで見ないでよ」

「知るかぁ、お前が後から見てきたんだろが」

「違うよ、僕が先…はぁ、これルッスーリアから預かってきたのかい?」

先程置かれたココアの入ったマグカップ。
それをマーモンは指差しながらスクアーロに問いかけると"あー"と曖昧な返事をスクアーロは漏らした。

「預かったってか、作らされたんだぁ」

「作らされた…ってことは、君が作ったの?」

「あいつと廊下で会ったときに"用事を思い出した"とかなんとか言ってな
お前にココア作って持ってく約束してたからとかで俺に作らせてあいつはどっか行った…ったく、無責任な野郎だぜぇ」

「…ふぅん」

スクアーロが、僕の為に…。

「…んふふ」

「う"ぉぉい、なにニヤついてんだぁ」

「いや、君がココア作ってくれたのが嬉しくてね…
僕は書類整理の時に君に珈琲淹れたりするけど、君がしてくれたことなかったろ?」

「あ"?あー…確かにそうだな…
だからって、その程度の事でそんな顔」

マグカップに手を伸ばして少し息を吹きかけて熱さを和らげる。
数回それを繰り返した後に口をつけてコクンと一口飲んでみた。 
甘さが身体の中を巡り、少し疲れが和らいだような気がした。

「ん…美味しいよ、ありがとスクアーロ」

「…お"ぉ」

口元に笑みを浮かべながら礼を言うと、スクアーロは気恥ずかしそうに頭をかいた後返事をする。

「だけど、お前砂糖入れすぎじゃねぇか?
確か4杯位入れた気がするが」

「あぁ、どおりで…流石ルッスーリア
僕の好みを把握しているね」

初めて自分に作ってくれたのに、いつもの慣れ親しんでいる味。
それがルッスーリアの助言で作られたものを察した。

「飲んでみる?」

「いや、遠慮しとく…見てるだけで胸焼けしそうだぁ」

マーモンが再度ココアを飲みながら問いかけると、スクアーロは少し表情を歪ませながら断る。

「そう?美味しいのに…君が作ってくれたからかな」

「お前なぁ、よくそんなに恥ずかしげもなく言えるもんだな」

「それだけ嬉しいのさ
君のおかげで、疲れも少しはとれたかも」

「…」

んーっと背伸びをして少し身体を解すと、スクアーロが見ていることに気付いた。

「どうしたの?」

「いや、任務延びてたみたいだから今日は部屋の中に引きこもってると思ってたから意外でよ」

「ム…確かにそうだね
今回はイレギュラーが多くて忙し過ぎて…本当は君が言う通り、引きこもってようと思ってたんだけど
それはそれでなんか違う気がして」

「違う?」

「うーん、なんて言うのかな
確かに静かなところでゆっくりしたい気持ちもあるんだけどさ
誰かが話している声とか、誰かがいる空間に少しいたいって思ったんだよ
だから、今日はここに来たんだけど…今日に限ってベルもいないし
ルッスーリアだけっていうのが不満じゃないんだけど、ルッスーリアだけだと静か過ぎるというか…僕に気を遣って静かになっちゃうし」

「…」

「まぁ、だから君が今こうして話し相手になってくれて…ってどうしたの、黙り込んで」

ふとスクアーロからなにも反応が無いことに気付いて顔を覗き込むと、なにやら眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情になっている。

「え、怒ってる?怒らせるようなこと言った?」

「…お前よぉ、それならなんで俺んとこ来ないでこっち来てやがんだぁ?」

「それは、君のことだから仕事してるかと思ったし報告書出す時でいいかなって」

「ベルの所行くのもここに来るのも、俺のところ来るのも変わらねぇだろが」

「わぷ」

グイッと腕を引かれ、そのままスクアーロの腕の中へと収まってしまいマーモンは驚いて小さく声を漏らす。
モゾッと少し動いてスクアーロを見上げてみると、表情は変わらず、どこか拗ねているかのよう感じた。

…あぁ…なるほど。

「…ふふ」

「う"ぉぉい、なんで笑ってんだぁ」

「いや、ごめん…ちょっとね…
でも、僕だって最初に君の所へ行こうとしたよ?」

「あ"?ならなんで来ねぇんだ」

「…それは…ほら、なんというか…君に、そういう弱ってる姿を見せたくなくて」

「弱ってる?」

「恥ずかしいじゃないか、恋人に疲れ切った表情とか弱ってる姿を見せるの
僕も一応男なんだから、少しは君の前でかっこつけていたいんだよ」

「…ぶはッ!」

マーモンの言葉に数秒黙り込んだスクアーロだったが、その後に盛大に吹き出してマーモンは驚きの表情を向けた。

「な、なに笑ってるのさ」

「いや…くくッ…お前がかっこたけたい、だなんて笑わせらぁ
こちとら、お前が赤ん坊の姿の時から色んな姿見てんだぜ?
鼻提灯出しながら寝てたり、鼻水すすったりだとかよぉ」

「ムムムッ、それとこれとは話は別さ
赤ん坊の時の話はしないでよ、恥ずかしい」

赤ん坊の時の話をされてその光景を思い出してしまったマーモンは顔を赤くしてフードを深く被り直す。

「だが、ちゃんとてめぇのかっこいい所は分かってるから安心しろ」

「なら例えば?」

「あ"?例えば…」

試しにどこがかっこいいと思うのか聞いてやろう。
そう思いながらジトリとした目つきでスクアーロに問いかけるも、スクアーロは考え込んでいるのか黙ってしまった。

「…ほらみろ、やっぱり僕の事そう思ってな」

「…任務の時、集中してる横顔」

「むむ?」

フンッと鼻で笑いながらスクアーロに言いかけると、途中で遮るかのように言葉が被さりマーモンは不思議そうにスクアーロを見た。
スクアーロは顎に手を当てた状態で言葉を続ける。

「あと幻術使って少しテンション上がってるところもいいな
俺の書類整理手伝う時にドヤりながら声かけてくるところとかもいいし」

「それ褒めてる?」

「一応褒めてるぜぇ?
つーわけだから、お前のかっこいいところは大概把握してんぞ」

ドヤッと効果音がつきそうなほど口角を上げてドヤ顔を晒すスクアーロを見て、言動に恥ずかしくなったマーモンはスッと誤魔化すように顔を逸らした。

「…なんだそれ、君けっこう僕の事よく見てるよね…
普段淡白なくせにさ」

「淡白なぁ…そりゃ、そう見えてんなら本望だ」

「なにを」

言葉に疑問を抱きながら再度顔を向けると、至近距離にスクアーロの顔があり同時に唇に柔らかな物があたる感触。
驚いて数回パチパチと瞬きを繰り返していると唇が離され、意地悪気な笑みを浮かべたスクアーロの顔が目に入る。










「おら、早くココア飲み切って部屋行くぞ
色々と疲れ、取ってやらねぇとな」

「…逆に疲れそうなんだけど」








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