僕に関心を


「君ってさ、恋人とかいないの?」

「ッごほ!げほッ!」

シャワーを浴び終え、頭にタオルを乗せたマーモンはソファーに腰掛けて珈琲を飲んでいるヴェルデに問いかけた。
ヴェルデは突然の問いかけに珈琲が気管に入ってしまったのか盛大に咳き込んだ。

「うわ、汚い」

「ごほッ…お前が変な事を言うからだろう…いきなりなんなんだ」

マーモンは汚いものを見るかのような眼差しを向け、隣へと腰掛けた。
だんだんと落ち着いてきたのかヴェルデはマグカップをテーブルへと置き、マーモンへと体を向ける。

「いやさ、ここに来る前にコロネロに会ってね
話の流れから僕とヴェルデがなぜか付き合っているのかとか言い出したから」

「くだらん会話だな」

「ちゃんと否定したから安心してよ」

「…それで、その話からなぜさっきの質問になる?」

呆れたようなため息をヴェルデは漏らし、マーモンに"後ろを向け"と指示をする。
指示通りマーモンはヴェルデに背中を向けると、わしゃわしゃと髪の毛の水滴をとるように頭をタオルで拭き始めた。
背後から煙草と珈琲の微かな匂い。"あー、ヴェルデの匂いだ"とマーモンは感じながらポフッと寄り掛かる。

「君からそういう浮ついた話聞いた事ないなって思ってね」

「それで、いたとしてお前はどうする?」

ピタリと拭く手を止めたヴェルデ。マーモンは"んー"と唸り声を上げた。

「それは、まぁ…邪魔しちゃ悪いし来るのは控えるよ
あ、でも治験ある時は行くよ?お金欲しいし」

「それだけか?」

「ム?それだけって…なにさ」

どことなく真剣な声色のヴェルデに驚きながら顔を向けると、ヴェルデはジッとマーモンの事を見た後に"はぁ"とため息をついた。

「…まぁ、いい
私もシャワーを浴びてくる、待ってろ」

「え、あぁ…うん」

スッとヴェルデは立ち上がるとスタスタと部屋から出ていってしまい、パタンと扉が閉められた。
出ていくのを見送ったマーモンは小さく息を漏らしながらソファーにコテンと横たわる。

あれ、なんか僕変なこと言っちゃった?
確かに恋愛系の話をしてこなかったとはいえ、そこまで怒らせるようなことだったかな…。

「ムムムムム…」

マーモンは頭を抱えて考え込む。

今日泊まるってもう言っちゃったし、戻ってきたら謝るべき?
いやでも謝るほどの事なのか?
そもそも、あいつが"いたらどうする?"とかい…。

そこで、マーモンはハッとした表情を浮かべて上体を起こした。

もしかしてあいつ…。










今日、恋人と会うつもりだったのか…?










そうだとしたら、さっきまでのあいつの態度に納得がいく。
今日だって元は治験ないって言ってたし…だからといって"来るな"とも言ってないけど。
そう考えると、僕すごい邪魔をしてるって事に…。

…でも…。

「…あぁぁぁ…僕はどうしたら…」

ガチャッ。

「待たせ…なにがどうしてそうなっている」

頭を抱えながら自分の行いをどうすべきか考えていると扉が開き、頭を拭きながらヴェルデが入ってきてマーモンの言動に怪訝そうな表情を浮かべた。

「いや…色々と考え事を」

「考え事?」

「…ねぇ、ヴェルデ」

「なんだ、ってなぜ正座を?」

マーモンはスッと姿勢を正して正座でヴェルデに向かい合い、ヴェルデは不思議そうに見下ろした。

「僕…今日…泊まって大丈夫なのかい?」

「…?泊まるな、といっても泊まるだろうお前は」

「いや、そうじゃなくて!…もし、今日君がなにかしら予定があるのであれば、僕邪魔じゃないかなって」

顔を俯かせながらしょもしょもと小さな声で言うマーモンの様子に、なんとなく状態を察したのかヴェルデはマーモンの隣へと腰掛けた。

「別に予定などないから気にするな」

「…本当?恋人との約束とか」

「…ッはは」 

「!な、なんだよ!なんで笑うのさ!」

チラリと見上げながら言う姿が子犬の様だと感じ、ヴェルデは思わず吹き出してしまう。
笑われたことが恥ずかしくなったマーモンはカァッと頬を赤くしながらヴェルデへと掴みかかる。

「ククッ、いや…すまない
ずいぶんと必死に見えたのでな」

「ひ…っしってわけではないけれど、もし恋人がいるのであれば僕、すごい邪魔してる事になるじゃないか
そうだとしたら申し訳なくて」

「そもそも、私に恋人などいない
そんなものにうつつを抜かす暇があるのなら研究をしたほうがマシだ」

「…そしたら君、一生独身で孤独死することになるよ?」

「唐突に現実を突きつけるのはやめろ」










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