いつから抱いた恋心
「お前さ、スクアーロと喧嘩でもしたわけ?」
「むぐッ」
とある休日。
ベルの部屋でテレビに向かいながら対戦ゲームをしていると、ふとベルが言葉を投げかけてきてマーモンは唐突な発言に吹き出してしまった。
マーモンが操作していたキャラはそのまま奈落へと落果していき、テレビの画面に"ゲーム セット"の文字が浮かび上がる。
「うししッ、王子の勝ちぃ」
自分の勝利が決定したベルは喜びの声を上げながらポイッとコントローラーを投げ出し、その様子を忌々しそうな表情でマーモンは見つめた。
「…今のは無し、認めない」
「ししッ、敗者がなに言っても無意味だから
そんで、スクアーロと喧嘩してんの?」
テーブルに置いてあるクッキーを口へと入れながら再度同じ言葉をベルは言う。
その言葉にマーモンは黙り込み、自分もクッキーを手に取りサクッと音を立てながら咀嚼をする。
「なんでそんな事言うの、君には関係ないだろう?」
「関係大アリだっつの」
ベルはクッキーを取ろうとするマーモンの手首を掴み、ズイッと顔を近付ける。
前髪の隙間から見えるベルの瞳。その瞳がマーモンの瞳をジッと捉えていた。
「関係、あんの」
「…ベル…んむぐッ」
どことなく真剣な雰囲気にマーモンが名前を呼ぶと、ベルは空いている片手でマーモンの頬を掴んだ。
「…王子が無関係だったら放置しとくけどさー
お前が、王子のこと伝言係みたいに扱うから困ってんだよねー?
"スクアーロに書類渡しといて"とか、"スクアーロに伝えといて"とか?
王子のこと顎で使うとか生意気すぎ」
「むぐ、むむむむむ」
手首を掴んでいた手が頬へと移動し、むにむにと感触を堪能するかのように揉み続けられる。
マーモンはくぐもった声を漏らしながらベルの手首を掴み離させようとする。
しかし、離す事が出来ずに自分とベルとの力の差を感じた。
「べりゅ、はなひへ」
「おー、やっぱお前すげぇむにむに
お前のほっぺで無限むにむにできそう」
「ばかなほとひっへなひへ、はなひ」
ガチャッ。
「う"ぉぉい、ベル
マーモン見てねぇか」
いきなり部屋の扉が開かれ、スクアーロが声をかけながら室内へと入ってくる。
「んだよ、勝手に入んなし」
「うるせぇ、お前だって人の事言えねぇだろがぁ
そんで、マーモンはいるのか?」
「マーモンならここに…あり?」
そう言うも先程まで手に感じていた頬の柔らかさがなくなっている事に気づいたベル。
マーモンがいたであろう自分の隣に目をやると、跡形もなく消えている。
「…あいつ、逃げやがった」
「…仕方ねぇ、あとでまた出直すかぁ」
「待てよ鮫」
「あ"?」
チッと舌打ちをするベルを他所にスクアーロが部屋から出ていこうとすると引き止められて歩みを止める。
ベルは手の平に微かに残っている霧の残骸をチラリと見た後にスクアーロへと顔を向けた。
「お前さ、マーモンと喧嘩でもした?
最近お前らが話してるとこ見てねぇし、あいつが俺の事伝言係みたいに使うけど」
「…」
「王子としては迷惑なんだよねぇ」
「…俺の方が聞きてぇよ」
ベルの言葉を聞いた後、スクアーロは深いため息をつきながら額を抑えた。
「1週間前、マーモンが気失ってお前が俺の所に連れてきてからおかしいんだぁ
いきなり部屋から出ていっちまうしよ」
「いきなり?」
「俺とあいつがお互い忙しくて一緒に寝れてなかったんだが、あいつの顔色良かったから寝れてるのかと思ってたんだが化粧で誤魔化してやがってよ
それについて問いただしたら、おとなしくなったと思ったらいきなり口元抑えだして
そんで泣き出してよ、宥めてたらさっき言った通り出て行っちまったんだ
それ以降はろくに姿も見てねぇし話も出来てねぇ」
「…へぇ…」
スクアーロに問いただされただけじゃ、あいつが泣くわけない。
口元抑えてたって事は、げろ吐きそうになってたとか?
いや、体調悪かったら悪かったで言うか。ガキじゃあるまいし。
それ以外で、口から出てくるもの。
そんでもって、こいつには見られたくない、知られたくないこと…。
口から漏れ出る、本心。
「…あ」
マーモンの行動の意味に気付いてしまったベルは小さく声を漏らした。
「ベルよぉ、マーモンの奴最近寝れてそうかぁ?」
「…」
ベルがスクアーロに顔を向けると、"なんだ?"と反応を見せてくる。
「お前は、あいつのことどうするつもりなわけ?」
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