お別れするのが切なくて


「それじゃ、僕は帰るよ」

イタリアにあるリボーンの隠れ家で過ごして2日目の朝。
マーモンはソファーでくつろいでいるリボーンへと声をかけながら手荷物を持った。

「なんだ、もう1日泊まるんじゃなかったのか?」

突然のマーモンの言葉にリボーンは顔を向け、少し不満げな声をあげる。

「その予定だったんだけど、スクアーロから連絡がきてね
急遽スクアーロがアジトを留守にすることになったから帰ることになったのさ」

「そんぐらい他の奴に任せりゃいいだろ?」

「ムム、そうなんだけどね
ルッスーリアがいるから別に大丈夫だとは思うけど、念の為」

「ハッ、暗殺部隊様はお忙しいこった」

鼻で笑いながらリボーンは言うと、立ち上がってマーモンの目の前へとやってくる。
マーモンはその様子をジッと見つめた。

「少し棘のある言い方だね」

「そんな言い方にもなるわ
お前、今回会うのも一ヶ月ぶりだったの忘れたのか?」

「忘れてないよ
というか、僕だけが忙しい言い方はよしてほしいね
君だって、沢田綱吉の家庭教師に本職にと忙しい身じゃないか
何回それで君にドタキャンをされたことか…まぁ、君の場合、愛人たちにうつつを抜かしていたのかもしれないけど」

リボーンの言葉に腹が立ち、負けじと言い返すと頭上から"ふは"と吹き出す声が聞こえてくる。
すると、スッと自分の横髪に手が伸ばされてリボーンはそれに軽く口づけをした。

「妬いてんのか?」

「君がそういう奴だってわかってるからね、妬くわけないだろう?君の愛人達はどうだか知らないけど僕はそこまで弱くないさ」

「可愛くねぇ奴、それじゃ気を付けて帰れよ」

「あぁ」

つれない態度のマーモンを見てこれ以上引き止めるのは悪手だと思ったリボーンは髪に触れていた手を頬へと移動させ、少し身を屈めるとチュッと唇に口づけをした。
顔を離すとマーモンの表情はいつも通りフードで隠れて見えない。

こいつ、本当に俺のこと好きなんかねぇ。
いつもフード被ってて表情なんて見えりゃしねぇ。
この2日間もずっと被ってるし、なんなら今回は行為もしねぇで俺に少し触れるくらいだったし。
元々そういう欲が薄い奴なのは知っていたが…。









もうちょい俺のこと、求めてもいいんじゃねぇの?










小さく息を漏らしながらリボーンはマーモンへと背中を向けて再びソファーへと座ろうとした。









ギュッ。

「ッ?」

動こうとするもクンッとシャツが掴まれて動けない。
なにかに引っかかったのかと思い振り返ってみると、マーモンが自分のシャツを遠慮がちに掴んでいた。

「おい、どうした」

「え、なにが?」

声をかけるとマーモンは不思議そうにリボーンを見上げている。

「なにが、じゃねぇよ
お前がこれ、掴んでるから」

「なにを言って…」

マーモンが掴んでいることを指を差しながら指摘をすると、どうやら無意識だったのかマーモンはそれを見て"あ…"と気づいたように声を出しソッと手を離した。

「ごめん、なんか…掴んでた」

「いや、別にいいけどよ」

なんだ、珍しいな。
こいつがこういう事するなんて。

自分のシャツを掴んでいた手を片方の手で抑えながらマーモンはフッと視線をリボーンから離し、リボーンは意外そうな表情を浮かべる。

マーモンの様子からして無意識にやってたようだが…無意識でやるもんか、普通?
そもそも、なんで掴んでくるんだ?
そんなことしたって、俺が動けなくなるだけ…。










…あ。









「…変なことして悪かったね、それじゃまた」

パシッ。

「ッ?」

考え込んでいるとマーモンから声が聞こえ、背中を向けて扉に手をかけているのが見えてリボーンは引き止めるようにマーモンの片腕を掴んだ。
歩き出そうと一歩踏み出していたマーモンの動きが止まり、驚いたように振り返った。

「え、な…ッむぎゃ!」

驚き固まったマーモンの腕をグンッと引き寄せてそのまま腕の中に収めてしまう。
マーモンは頭に?を浮かべながらリボーンを見上げていたが、リボーンが抱きしめる力を強めると恐る恐る背中に手を回して抱きしめ返した。

「…僕、帰るって言ったんだけど」

「なら突き放せばいいだろ?
お前、ほんっと分かりづれぇな」  

「君の力に非力な僕が勝てるわけないさ 
というか、分かりづらいってなんのこと」

「…」

「ねぇ、聞いて」

自分の問いに黙り込んで返答をしないリボーンにしびれを切らしたのか、少し苛ついた口調で話しかけながら顔を向けると不意に唇を奪われてマーモンは黙り込んだ。
触れるだけのキスはすぐに離され、リボーンは少し熱のこもった瞳でマーモンをジッと見つめその瞳に吸い寄せられるかのようにマーモンは見つめ返した。
少しの間見つめ合った後、リボーンがスッと顔を近付ける。

「…だ、だめ」

唇が触れるギリギリのところでマーモンは小さく言いながら避けるように顔を少し傾けた。

「僕、帰らないと」

「…別に大丈夫なんだろ?」

「そうだけど…でも…」 

困ったように口ごもるマーモンの顎をクイッと持ち上げ、リボーンは先程の続きをするように再度顔を近付け始めた。

「だ、から、僕…」

「マーモン」









「帰らねぇで、俺といろ」









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