甘さに勝る、ものはなく
「ごちそうさま、ベル」
マーモンは自分の隣を歩くベルへとお礼の言葉を述べた。
「別に、仕返しだから気にすんなよ」
自分の言葉に素っ気なく返すベルの様子に、思わず可笑しくて小さく笑みを浮かべてしまう。
「なに?なんか王子、おかしなこと言った?」
「いや?その仕返しのためだけに、ジャッポーネに来てお寿司食べるって…相当手の込んだ仕返しだね」
唐突に「ジャッポーネ行く」って言われた時は何事かと思ったけど…まさかお寿司を食べるためだとは。
「…手の込んだ仕返しって言っても、しょっちゅうこうやってジャッポーネ行って寿司食ってんじゃん
結局はいつものことしてるだけだし
ぶーっちゃけ、ホワイトデーの仕返しって言ったけど、王子が食いたくて来ただけ」
「はいはい、そういう事にしといてあげる」
つらつらと言葉を並べるベルに言葉を返した後、マーモンはスマホを取り出して画面を見てみる。
…イタリアとの時差を考えると…そろそろ帰った方がいいな。
ベルの任務に間に合わなくなっちゃうし。
「…ベル、そろそろ帰ろうか
君の任務に間に合わなくなっちゃう」
「んー?あー、もうそんな時間か
結局、滞在時間寿司食った1時間だけだったな」
「君がもう少し早く言ってくれればよかったんだよ…まったく」
「うししッ」
さも自分は悪くないかのように笑みを浮かべるベル。
それを見て、呆れたようにため息を吐き出しながらベルへと手を差し出した。
「ほら、行こう?」
「なんだよ、その手」
差し出される手を訝しげに見てくるベルに、マーモンはズイッと再び手を差し出す。
「手繋いであげようかなって、ベルが迷子にならないように」
「はぁん?王子もう子どもじゃないんですけど?」
「子どもだよ、僕からしたらずっとね」
「…子ども、ね…」
「それで、どうするの?手、繋」
「なぁ、マーモンさ」
「?」
差し出した手をベルは掴むことなく、マーモンの目の前に立ってジッとマーモンの事を見下ろした。
それに不思議そうにしながら、マーモンはベルを見上げると、普段は見ることのない瞳が、自分を捉えていることに気付く。
「どうしたの、ベル」
「お前さ、なんで今回俺にチョコくれたわけ?」
突然の問いかけにマーモンは瞳を軽く見開いた後、小さく息を吐いた。
「…なにを聞くのかと思えば…
特に深い意味はないよ、ただ、いつもならこの時期に僕が買ってきたチョコとかお菓子類を君も一緒に食べてたからね…
今回は任務で一緒に食べれなかったから、それで渡しただけさ」
「…なんでチョコだったんだよ」
「…?チョコいっぱい買ってたし、それに君だっていつも僕がチョコ食べてると横取りするだろう?
だから、チョコ好きなのかと思ってそれで渡しただけ」
「…」
「…え、もしかしてチョコじゃないほうがよかった?」
ベルの反応がないことから、マーモンは少し心配になりそっと顔を覗き込む。
しかし、やはり表情に変わりはなく、瞳は自分を捉えたまま。
「ベ」
「…んま、お前だもんな」
「むむっ!」
ぽつりと呟かれるベルの言葉。
それと同時に、マーモンの頭へと手が伸ばされてわしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でられ、驚きから声を上げてしまった。
「ちょ、いったいな」
ずっと撫で続けるベルの手を掴みながら話しかけると、そのまま空いている手を腰に回されて抱き寄せられてしまい、マーモンは言葉を失ってしまった。
驚きからベルの手を掴んでいた自分の手から力が抜けてしまい、ベルはその手もマーモンの腰へと回して抱きしめる力を強める。
「…ベル?」
「…ちょいこのまんま」
「このまんまって…ここ、道の真ん中なんだけど」
そう言うも、離すつもりはないらしくベルはそのまま黙り込んでしまう。
視線を周りに向けるも、都合がいいと言うべきか、人が通る様子もなく、特に気配もない。
…仕方ないな…。
「…まったく…いつまでもおこちゃま王子なんだから」
ゆっくりと瞳を閉じ、ベルの頭にそっと手を触れて優しく撫でながら苦笑を浮かべる。
「…来年は、チョコだけじゃなくて君が好きそうな物を数種類選んでおくよ」
「…そういう意味じゃねぇんだよ、あほマーモン」
→
