甘さの中には苦みも隠れ
「ゔぉぉい、なんだこの箱は」
目の前のテーブルに乗せられた大量の箱。
それを見たスクアーロはあまりの多さに声に出してしまう。
「何って、お菓子だけど?」
箱を1つ手に持ち、中に入っているチョコレートを一粒取り出すとマーモンはそれをひょいっと口の中へと入れながら答えた。
「菓子って…これ全部か?」
「うん、全部」
テーブルの上の箱全てがお菓子と言われ、スクアーロはそれらをジッと見てみる。
よく見ると、パッケージにはお菓子の写真や名前が書かれておりマーモンの言っていることが本当だった。
「いつの間にこんなに…」
「今の時期ってさ、世間はバレンタインデーとかで浮かれてて普段は売られてないようなチョコ系のお菓子が売られているんだよ」
「…」
その浮かれにつられて、お菓子爆買いしてるこいつも大概だな。
しっかし…バレンタインなぁ…。
「暗殺部隊の俺達には、縁もゆかりも無い話だぜ」
「む」
ドカッと勢いよくマーモンの座っているソファーの隣へと腰掛けると、マーモンは小さく声を漏らしてジトリとした視線をこちらへと向ける。
「ちょっと、危ない」
「るせぇ、菓子食ってるだけならちょっと手伝ってくれぇ」
「手伝い…?なに、また書類貯めてるの?」
「ちげぇよ、最近はボスが気まぐれである程度はやってるからな」
「ふぅん、ボスがね…
それなら、いったい何をしろって言うんだい?」
ボスの名前が出てくると、マーモンは意外そうな反応を見せてその先を促した。
「ちょいと補給」
「補給?補給ってなに…」
スクアーロの言葉に首を傾げるマーモンへと手を伸ばし、そのまま背中に手を回すと優しく抱きしめ始める。
「…」
「…補給って…そういう事か…」
一瞬驚いた表情を浮かべるも、マーモンは慣れているかのように呟くとチョコレートの入ったお菓子をテーブルに置くと片方の手でスクアーロの頭を優しく撫で始めた。
その手の感触が心地よく、スクアーロは瞳を細める。
「またボスと喧嘩?今度は何があったのさ」
「そういうんじゃねぇ…ただ、お前に触れたいだけだぁ」
「君がだいたいこういう事言う時は、なにかしらあるかと思ったんだけど…ふぅん…別にいいけんだけどさ」
「なんだぁ?なにかあったほうがよかったか?」
「そういうわけじゃないよ、これ以上深く詮索しないでくれる?
恥ずかしいから」
「恥ずかしいって、今さら何を」
そう言いかけながらマーモンへと顔を向けると、自分の唇に人差し指が当てられ目を丸くしてマーモンを見上げる。
すると、仄かに頬を赤らめた表情で自分を見ていることに気付いた。
「言ったろ、これ以上詮索しないでって」
「…マー」
スンッ。
「…?」
なんだぁ、この匂い…。
マーモンの名前を口にしようとした瞬間、ふと鼻につく匂いにスクアーロは首を傾げる。
さっきまで気にならなかったが…マーモンから…。
匂いの元を辿るとどうやらマーモンからのようで、スクアーロはマーモンへと顔を近づけて匂いを嗅いだ。
「ちょっと、なに?」
匂い…アルコールか?
だが、マーモンはすげぇ下戸だから飲むなんてこと…。
「…」
さっき…チョコ食べてたな…。
そう思いながらスクアーロはテーブルに置かれたチョコレートの箱を手にして表記を確認する。
すると、考えていた通りアルコール表記がされているのに気付いた。
「スクアーロ?」
「お前、これ酒入ってんぞ」
ズイッとマーモンの目の前に箱を向けると、スクアーロの言葉の意味が分かったのか"あ…"と小さく声を漏らした。
「…通りでお酒の匂いがすると思った…
君が飲んでから僕の所に来たものだと…」
「ゔぉぉい、まだ昼だろが
この時間からはボスじゃあるまいし飲まねぇよ」
「だよね…うん…度数が低いから気付かずに調子に乗って全部食べ…」
そこでマーモンはハッとした表情を浮かべ、中身が全て無いことを思い出したのか箱を見つめる。
「…あ…」
「なんだ、どうした?」
「…いや…ちょっと…やらかしちゃって…」
「やらかし?」
言葉の意味が分からずにいるとマーモンはスクッと立ち上がりスクアーロから離れて掛けてある上着を身に着け始めた。
「ごめんスクアーロ、ちょっと僕出かけてくる」
「あ"?つかお前そんな状態で…」
「大丈夫だよ、どうせすぐにぃ…」
「あ"!!」
慌てて出かける準備をし、部屋から出ようとしたマーモンだったがふらりと身体がよろけスクアーロは立ち上がるとマーモンの身体を支えて転倒を防ぐ。
「ッお、前なぁ…」
「むむ…ごめんスクアーロ」
「なにをそんなに急いでるんだか知らねぇが、酔っぱらった状態で行けるわけねぇだろ」
「酔っぱらってはないよ、ただふらつくだけで」
「それが酔っ払ってるってんだよ…ったく
大人しく休んでろ」
「むむむ…いや、でも…」
いつもならすんなりと引き下がるマーモンなのに、今日はいつも以上に頑固になっている。
そんなマーモンを見て、スクアーロは小さく息を吐き出すとマーモンの顔を覗き込んだ。
「…そんなに急ぎの用なのか?」
「急ぎというか…まぁ…そうだね…
今日中のほうが好ましい、かな」
「ほぉん…なら、仕方ねぇ」
「?」
マーモンをソファーへと座らせると、スクアーロは背中を向けて部屋の扉へと向かって歩いていく。
「スクアーロ?」
「ちょっと待ってろぉ、俺もついて行く」
「え?いや、流石に僕一人で」
「るせぇ、いくら幻術やテレポートで移動出来るとはいえ酔っ払いのお前を1人で行かせられるかぁ」
「でも」
「それに、俺も今日はあいにく任務も書類整理もねぇ」
「いやでも、僕か君、どっちかは残ってたほうが」
「ルッスーリアがいるから別にいいだろ
それともなんだ」
自分がついていくことがなにかまずいのか、マーモンが渋っている様子にスクアーロはピキッと青筋を立てると微かに振り向いてマーモンへと視線を向けた。
「俺とのデートは嫌だってのか?」
「…え…いや…」
スクアーロの放った言葉にマーモンは驚いた表情を浮かべながらスッとスクアーロからの視線から逃げるように顔を背ける。
「…いやじゃ…ないけど…」
「ならいつまでも文句言うんじゃねぇ
10分後に玄関で待ち合わせだ、わかったな」
「うん…わかった」
先ほどとは違い、素直に返事をする様子を見た後にスクアーロはマーモンの部屋から出ていった。
「…さて…」
「ルッスーリアにボスの世話でも頼むとするかぁ…」
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