唯一無二にはなれなくて
「…ったく、クソボスのせいでいらん仕事が増えて困らぁ」
スクアーロの部屋へと入ると、スクアーロは大きなため息をつきながらドカッと勢いよくソファーへと腰掛ける。
「やれあれが食いてぇ、これが食いてぇと…中身は幼いまんまだぜ」
「…お疲れ様
僕とベルが出かけた後も騒いでいたのかい?」
「あ"ー…そういや、その後は珍しく静かだったな
おかげで唐突に来た書類の整理が済んだからよかったわ」
"ほら、来い"と隣をポフッと叩く様子を見て、マーモンは指示されるがままに隣へと腰掛けた。
チラリとスクアーロを横目で見ると、相当疲れたのかどことなくいつものような覇気がないように感じる。
「お前は何してきたんだよ、ベルと」
「僕?僕は特になにもないさ
ただいつも通りカフェ行ったり、お散歩したり、あとはゲームセンターに行ったり」
「ゔぉぉい、それ思いきりデートじゃねぇか」
「デートじゃないよ、ただのお遊びさ
といっても、お守りに近いけどね
君も一度ベルと出かけてみるといいよ」
「絶対嫌だわ、お前じゃねぇとベルは扱い切れねぇよ」
「僕も扱いきれてるわけじゃないけどね…っと…」
こてん、とスクアーロの頭が肩へともたれ掛かり、マーモンはそっとスクアーロの頭へと手を伸ばして優しく撫で始めた。
「随分と甘えたじゃないか、スクアーロ」
「…るせぇ…疲れてるだけだぁ」
撫でるにつれて細まるスクアーロの瞳。
いつもの鋭い目つきとは違う様子に、マーモンの口元が緩んでしまう。
「なら早く寝なよ、君は明日」
「なんもねぇ、やるとしても書類の整理ぐらいでな」
「ふぅん…そう…」
これだけ疲れてるなら、もう素直に寝かせた方がいいかもしれない。
明日も休みだって言うし、明日でも…。
「スクアーロ、自分から言っておいてなんだけど…今日はもう眠ろうか
君もお疲れのようだしね」
「…ゔぉぉい、マーモン」
「ム?なに…」
寄りかかっていたスクアーロがチラリとマーモンを見上げるように少し上目で見つめ、マーモンはきょとんとした表情を浮かべる。
「確かに疲れてるが…それよりも俺は…」
「…ス」
〜♪
「ッ?」
マーモンは自分のポケットに入れていたスマホから音楽が聞こえ、ビクッと身体を跳ねさせながらスマホを手に取る。
「…ベル?」
「…」
画面に表示される名前を口にすると、スクアーロがピクリと反応を示したのがわかった。
なんだろ…というか、さっき寝るって言ったくせに…。
「ごめん、スクアーロ
ベルから電話きたから、ちょっと待っ」
パシッ。
「ムムッ?」
スマホを操作しながらスクアーロに声を掛けると、スマホを手にしていた手首を掴まれてマーモンはピタリと動きを止める。
「どうしたの?」
「…」
マーモンの手首を掴んだまま黙り込むスクアーロ。
「スク…むぐ」
再度名前を呼ぼうとすると、スクアーロはスッとマーモンへと顔を近付けそのまま唇を奪うようにキスをした。
「む…むむ…ッんんー?!」
すぐに離されると思っていた唇はそのままずっと重なり続け、マーモンは呼吸が出来ない苦しさでくぐもった声をあげる。
い…息…できな…。
しばらくするとスマホの着信音が聞こえなくなり、それを合図にするかのようにスクアーロは唇を離した。
「ッはぁ…ちょ、ちょっと…いきなりなにするのさ…!」
「…」
「ねえ、聞いて」
荒い呼吸を繰り返しながらスクアーロへと問いかけると、スクアーロは眉間に皺を寄せ鋭い目つきでマーモンを見ており、その視線にマーモンの背筋がゾクリと震えた。
…あれ…なんか、これ…この光景に…覚えが…。
この光景に既視感を覚えていると、スクアーロの顔が再度近づいて来て反射的にマーモンはギュッと瞳を固く閉じる。
「い…ッ!」
次の瞬間鋭い痛みが走り、痛みからマーモンは声を漏らすとバッと目を開けた。
目の前にはスクアーロの頭が見え、自分の首筋に噛み付いているのだと察する。
「い、たい痛い…!!」
ギリギリと力が入れられていき、痛みが増していく。
あまりの痛さにマーモンが声を上げてスクアーロの頭へと手を伸ばすも、ガッと両手首を掴まれて拘束されてしまう。
「ッ…く…ぅ…うあ…」
「…は…ッ」
術をなくしたマーモンはギリッと歯を食いしばり痛みに耐えていると、しばらくするとスクアーロの口が首筋から離れた。
離されてもズキズキと響く首筋。
マーモンは微かに眉間に皺を寄せながらスクアーロを見上げる。
「君ね…流石の僕も君に怒るんだけど…」
「…よく言えた口だな、マーモンよぉ…
俺が目の前にいるってのに、さっきから散々ベルベルって」
「ッ!」
顔をゆっくりと上げ、明らかに機嫌が悪そうに瞳が鋭くなっているスクアーロの表情にマーモンはビクッと身体を跳ねさせた。
「そんなに、俺よりもベルの方が大事かぁ…?」
先ほど付けたマーモンの首筋の歯型に指を這わせながら、瞳を細めて問いかけてくる。
指が這う感覚に息を呑み、マーモンはふとスクアーロから視線を逸らしながら自分の首筋に触れている手首を掴んだ。
「そんなわけないだろう?」
「はッ、どうだかなぁ…随分とデートも楽しんだようだしよ」
「…」
この感覚あれだ。
以前に僕が、10年後の世界に行って戻ってきた時と一緒だ。
普段、嫉妬なんてしない彼。
そんな彼が、嫉妬して。
その瞳が。
ボスではなくて、僕だけに向いている。
「…まったく、馬鹿らしい事を聞くね、スクアーロ」
「あ"?」
手首を掴んでいた手をゆっくりと自分の口元へと持っていきながらマーモンが言うと、スクアーロはジッと様子を窺うようにマーモンを見下ろす。
「君だって、僕にほんのちょっかいを出してそのまま放置をして、ボスと戯れていたくせにさ」
「戯れなんて可愛いもんじゃねぇだろが」
スクアーロの人差し指に軽くキスを落としながら悪態をつくような口ぶりで言う。
すると、スクアーロが微かに反応を示したのがわかった。
「それなのに、さも僕だけが悪いような言い方で、僕の気も知らずに」
「…なにが言いてぇ」
「…スクアーロ」
人差し指を口にくわえ、カリッと軽く歯を立てて噛みつきながらマーモンはスクアーロを見上げながら名前を呼ぶ。
「君こそ、自分が誰のものかっていう自覚…あるの?」
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