唯一無二にはなれなくて


「ルッスーリア、もう怪我は大丈夫なのかい?」

ザンザスの食事の準備を終え、一息ついたマーモンとスクアーロ、ルッスーリアば椅子へと腰掛けていると、マーモンはふと気になりルッスーリアに声をかけた。

「大丈夫よ?そもそも怪我ってほどでもないのよ
ただ当たりどころが悪くて気絶してただけで」

「…それはそれで大丈夫なのか心配になるんだけど
スクアーロはどう?どこか怪我は?」

「あ"?俺は別にねぇよ」

「そう…今日はなにも身体に当たっていないようだからよかったけど、なにか違和感あったらすぐに言いなよ
見てあげるから」

「んなお前に心配されるほど俺はやわじゃねぇよ
それに、こんな事は日常茶飯事で慣れてるしなぁ」

ふと遠い目をしながら言うスクアーロにマーモンは"あぁ…"と声を漏らして憐れみの眼差しで見つめる。

昨日も昨日でやってたよな…昨日はなんだっけ…。
洋食食べたいって言ってたけど、途中から和食食べたいってなったんだっけ…すき焼き?
結局はボス、お肉好きだよなぁ…。

ふと先ほどルッスーリアが調理したステーキを黙々と食べているザンザスを見ながらマーモンは思う。

「…そうだね
いつもいつも毎日毎日飽きずにボスの対応ご苦労さま」

「飽きずにって…別に俺も好き好んでやってねぇぞ?
もう24だってのにわがまま放題言いやがってあんのクソボ…すぅ?!」

マーモンの言葉にため息混じりに反論するスクアーロだったが、言葉を続けている最中にザンザスの手からワインの入ったグラスが投げつけられ、そのままスクアーロの頭へとぶつかりグラスはそのまま床へと落ちて割れてしまった。

「あーぁ、余計なこと言うから」

「スクアーロって、学習しないわよねぇ」

「そこまで深く考えて発言してないんだよ
むしろ、わざと当てられにいってるの?ってたまに思うんだよね」

「Мっ気があるのね…」

「…ッ…こんの…!」

「はいはい、もうやめにしよ」

ぷるぷると震えてルッスーリアとマーモンの話を聞いていたスクアーロだったが、ガッと椅子から立ち上がったのを確認したマーモンが触手を出してスクアーロの肩にポンッと軽く置き、スクアーロの動きが止まる。

「これ以上したら、本気の喧嘩になりそうだから
ボスのご機嫌も戻った事だし、君としてはもういいだろう?」

「…」

動きが止まった様子を見てマーモンは触手をローブの中へとしまいながら言うと、スクアーロはマーモンに視線を向けた後にザンザスを一瞥し、疲れたように息を吐いた。

「…仕方ねぇ…俺はもう部屋戻るから、ルッスーリア」

「はいはい、あとは私に任せて大丈夫よ」

「マーモン、お前はどうすんだ?」

「むむ…そうだな…」

書類整理も溜まってるし、それにさっきスクアーロと…途中…だったし…。

「スク」

ガチャッ。

「あ、やーっと終わった?ボスの不機嫌タイム」

言葉を続けようとすると、食堂の扉が開かれてベルがはにかみながら中を覗き込み、安全を確認したのか中へと入ってくる。

「終わった?じゃねぇぞベル
てめぇ、1人だけ逃げ出しやがって」

「うししッ、王子がボスのこと止められるわけねぇじゃん?
怪我するなんて嫌だし、適材適所ってもんがあるから逃げただけ」

「むぎゅ」

けらりと笑いながらおちょくるような口調でベルは言い、ガバッとマーモンは背後から抱きしめられて苦しげな声を漏らす。

「ちょっと、ベル」

「なーなーマーモン
今から街行って遊ばね?どうせ任務ないだろ?」

「ないけど、街で遊ぶって君の場合殺し屋殺しするだけじゃないか」

「今日はしねぇよ、純粋にマーモンと遊ぶだけ
ショッピングしたり甘い物食いに行ったり?」

「むむ…だけど…」

「な、いいだろ?マーモン?」

甘い物という単語とベルの甘えるような言い方にマーモンは少し心が揺らぐとチラリとスクアーロへと視線を向ける。
すると、その視線に気付いたのかスクアーロは椅子から立ち上がった。

「別に急ぎのもんはねぇから、ベルの相手してやれ
そうなったらそいつ、ずっとうるさいしなぁ」

「そーそ、お前が行くって言うまで王子ずっと言うぜ?」

「…はぁ…いいよ、わかった」

スクアーロとベルを交互に見た後にマーモンは深いため息を吐き、自分に抱きついているベルの手に自分の手を重ねた。

「付き合ってあげるから、ベル離れて
これじゃ、どこも行けないよ」

「ししッ、んじゃ早く行こうぜ?」

「はいはい、わかったから
スクアーロ、ルッスーリア、僕達出かけるから
なにかあったら連絡よろしく」

自分を抱きしめていたベルが離れるとマーモンはベルの隣を歩きながら2人へと声を掛ける。

「お"ぅ、ベルの世話頼んだぜぇ」

「気をつけて行ってくるのよ〜」

「うん、行ってきます」

パタン、閉じられる扉。
マーモンとベルが食堂から出ていく様子を見送ったスクアーロはルッスーリアから視線を向けられていることに気付いた。

「なんだぁ?」

「よかったの?マーモンちゃん、ベルに取られちゃって」

「…」

「まぁ、マーモンちゃんもボスにスクアーロ取られちゃっていたし…おあいこってことかしらッ」

「んな気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ
別にあいつがどこへ行こうが、俺には知ったこっちゃねぇ」

にこにこと笑みを浮かべながら楽しげに言うルッスーリアを一瞥した後にスクアーロは冷たく言い放ち、そのまま部屋から出ていった。

「あらあら…もう…」











「2人とも、素直じゃないわねぇ…ねぇ、ボス?」

「…」

「そんな興味なさそうな顔しなくてもいいじゃなぁい?」 










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