唯一無二にはなれなくて


「よかった…お肉届いて」

スクアーロの部屋で待機していたマーモンだったが、外にいる部下に呼び出されてアジトの入口まで向かうとちょうど食料が届いたらしく、お目当ての肉だけ受け取り他は部下へと頼んでザンザスとスクアーロがいるであろう食堂へと向かった。

ほんと、うちのボスには困ったものだ。
やれあれが食べたいだの、さっきまではこれがいいと言っていたのに次はこれがいいだのと…まぁ、ボスらしいと言えばボスらしいんだけど。
毎回こうもあるとね…今回の場合はちょうど食料が届くのが遅くなったからだろうけど、在庫が切れて尚且つすぐに調達出来ない時とかは地獄を見るんだろうなぁ…主に、レヴィとスクアーロが。
…それに…いい雰囲気の時に呼び出しは…なんというか…。

「…ッは!」

ほわわんとスクアーロとの先程の光景を思い出し、マーモンはハッとして顔をぶんぶんと横に振り、小さくため息をつく。

「…とりあえず、早くスクアーロの所に持っていかないと
まだ10分くらいしか経っていないし、大丈夫でしょ」

"…!"

パリンッ!ボコッ!

"……!!!"

食堂の目の前へと着くと、聞き覚えのある怒号となにやら物がぶつかるような音が聞こえてきた。

よかった、スクアーロはまだ元気(?)そうだ。
今のうちに…。

ガチャッ。

「スクアーロ、今食料が届」

「ッ!マーモン危ねぇ!!」

「え?」

扉を開けながら声を掛けると、スクアーロの慌てたような声にぽかんとするも、自分の目の前へとグラスが飛んでくるのを見てマーモンは反射的に身体をサッと動かした。

あ…ぶな…。

パリンッ!と自分の背後の壁から聞こえるグラスが割れる音に心臓が大きく動いたような気がする。
食堂内を見てみると、やはりというべきか、いつものような惨状へとなっており、椅子に腰掛けてグラスを手にするザンザスとその対角線上で様子を伺いながらもマーモンの近くへとスクアーロはサッと移動をした。

「おっまえ!部屋で待ってろって言ったろが!」

「そうなんだけどお肉届いたから届けに来たんだよ」

「やっと来…ゔぉ?!」

マーモンが説明をして持っているお肉を見せると、スクアーロは気が緩んだようにほっと胸を撫で下ろすも、すぐに再び飛んできたグラスを寸前でかわした。

「チッ」

「てんめ、クソボス!
さっきから何度も何度もグラス投げつけやがってぇ!
お前、そのグラスも安くはねぇんだぞ!!」

グラスを避けるスクアーロを見てザンザスが舌打ちをすると、ピキッと額に青筋を立てながらビシッとザンザスを指差す。

「ゔぉぉい!ルッス起きろぉ!!
肉届いたからすぐに調理してくれぇ!」

これ以上長引かせては2人とも危ないと感じたのかスクアーロがふとどこかに向かって声をかけており、マーモンもつられて見てみると、ルッスーリアが横たわっていた。
マーモンはテレポートをしてルッスーリアの目の前へと現れしゃがみ込んで身体を軽く揺する。

「ルッスーリア、起きて」

「ん…んん…あら、マーモン…
私、もしかして倒れてた?」

何度か声かけをすると、ルッスーリアはうめき声を漏らしながら頭を押さえてゆっくりと身体を起こし、マーモンへと身体を向ける。

「うん、電話してる時に物当たったみたいで」

「もしかして、あの時一緒にいたの?」

「…まぁ…書類整理一緒にしてて…」

首を傾げながら問いかけるルッスーリアにマーモンはスッと瞳をそらしてごにょごにょと呟くように言うと、ルッスーリアはしばらく考えた後にハッとした表情を浮かべて口元を手で覆った。

「あらやだ!もしかしてお取り込み中だった?!」

「「んぶッ!」」

ルッスーリアの口から大きな声で発せられる言葉にマーモンとスクアーロは盛大に吹き出し、今までグラスをスクアーロへと投げつけていたザンザスの動きがピタリと止まった。

「ごめんなさいねぇ!気が利かなくって!!」

「いや、あの、大きな声で言うのやめてくれる…?!」

「そうと決まれば早く調理しないと!
ボスぅ!これ以上は2人のお邪魔になっちゃうからお遊びはここまでにしましょ!」

「…」

バッと勢いよく立ち上がり、ルッスーリアはマーモンから肉を受け取るとザンザスの方へと向きながらこれまた大きな声で言い、マーモンは"だから違ッ!!"と顔を赤くしながら立ち上がってルッスーリアのあとを追いかける。
その場に取り残されたザンザスとスクアーロはシンッと静まり返った食堂に二人取り残されたのだった。










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