唯一無二にはなれなくて
「ッ…ねぇ…ちょっと…」
「あ"?」
ソファーに座っているマーモンは、自分の上に覆い被さるような体勢で額や頬に口づけを落とすスクアーロを戸惑ったような表情で見上げ声をかけた。
「なんだぁ?」
「いきなりそういう事されると、流石に恥ずかしいと言うか」
「なにカマトトぶってんだ
別にキスぐらい、もう何回も何十回もしてんだろ」
「そうだけど、何回しても慣れないものは慣れないんだよ
ほら、書類確認頼んだのは君だろう?」
「俺と書類、どっちが大事だ?」
「書類溜め込んでいる人が言うセリフじゃないよね、それ
…というか、君と書類比べるまでもなく…君の方が、大事に決まってるじゃないか」
「なら問題ねぇだろがぁ、つべこべ文句言うんじゃねぇ」
「んむ…強引だな…ん…」
唇へと口づけしながら言うスクアーロの様子に、マーモンは呆れながらも満更でもなさそうに答え、するりとスクアーロの首へと腕を回して密着するように抱きつく。
…まぁ…別に悪い気しないし、久々だし…こんな機会滅多にないから…。
今日はスクアーロのこと…独り占めし…。
〜♪
「「…」」
不意にテーブルへと置いてあったスクアーロのスマホから着信音が聞こえてきて、2人はぴたりと動きを止める。
「…鳴ってるよ、スクアーロ」
「…ほっとけぇ、そう大したことじゃねぇだろ」
「むむッ」
お互い見つめ合いながら会話をし、スクアーロはめんどくさそうな口ぶりで言い、マーモンのローブの中へと手を入れる。
しかし、その間も着信音が止まることはなく鳴り続けていた。
「…」
「…」
「…ねぇ、流石に取ったほうがいいよ
ずっと鳴ってるし、君のスマホ」
自分の首筋に顔を埋めて身体を弄るスクアーロを見た後にスマホを見ながらマーモンが告げると、スクアーロはピタリと動きを止めて数秒後に顔をあげると不機嫌そうにスマホを手にとって通話ボタンを押し耳に当てた。
「…なんだぁ、こっちは今取り込」
『んもぉ!やっと出たわねスクアーロ!!』
「!」
「うるさッ!」
マーモンも会話を聞こうとスクアーロのスマホへと耳を近づけた瞬間に聞こえてくるルッスーリアの大きな声に耳がキーンッとなり思わず耳を塞ぐと、スクアーロもあまりの大きさにスマホを耳から少し離しており、少し落ち着いてから再び耳へと当てる。
『ボスが大変なのよぉ!
最初にラム肉食べたいって言って用意したのに、その後は黒毛和牛がいいって言ったんだけどちょうど切らしてるみたいでもうカンカン!』
「あ"ぁ?!今日届くはずなのにまだ届いてねぇのかぁ?!」
『そうなのよぉ!レヴィはボスの八つ当たりで物投げられて気絶しちゃって役に立たないし、ベルは早々に逃げて部下も何人も病院送り!このままじゃ、私もごふぅッ!!』
慌てた様子で話していたルッスーリアの声が、なにかがぶつかる音と同時に野太い声をあげてそのまま通話が切れたのかなにも聞こえなくなる
「ゔぉぉい!ルッス?!どうしたぁ!」
スクアーロが問いかけるもやはりなにも聞こえない。
「…スクアーロ、行ったほうがいいんじゃない?
ヴァリアーという組織自体、ボスにカッ消されちゃうかもよ?」
「…チッ…クソボスがぁ…」
マーモンの言葉にスクアーロは考えた後に舌打ちをしてめんどくさそうに頭をかきながらマーモンの上から退いた。
「僕も行こうか?」
「あー…いや、お前はここに残ってろぉ
俺一人でなんとかする」
「2人の方が早く済むと思うけど」
「それはそうだが、お前が怪我したら指揮取れる奴がいなくなるだろぉ
共倒れは一番避けてぇ」
「あぁ…なるほどね…一番それが最悪だ」
「ベルはうまく逃げたようだが、もし俺とお前が共倒れした時…あいつが仕切ると思うかぁ?」
「思わないね、微塵も」
「そういうわけだから、お前はここで待機してろ
もし俺が30分以内に戻ってこねぇ時は」
「大丈夫、医療班の用意はしとく…って、そうだ…
ルッスーリアもやられたっぼいよね、あの様子じゃ
簡単な手当ては出来るけど、流石に僕には晴れの炎は出せないから彼のようには治療出来そうにない」
ふと先程の電話から漏れ出たルッスーリアの声を思い出し、マーモンは自分の指につけられたリングから漏れる霧の炎を見ながらため息混じりに呟く。
「それだけでも助かるから、んな落ち込むなぁ
とりあえず行ってくるわ」
「ムムッ、別に落ち込んでなんか」
ポンッとあやすかのようにマーモンの頭に手を置いて軽く撫でるスクアーロを見上げると、不意に唇に柔らかな感触があり思わず目を見開いてしまう。
「んじゃ、30分後頼むぜぇ」
スッと自分の顔の目の前からスクアーロの顔が離れていき、そのまま部屋から出ていってしまい、一人残されたマーモンはスクアーロが出ていった扉を見つめながらソファーに横になった。
「…ただでさえ生殺しなのに…馬鹿あーろ…」
→
