お菓子をくれなきゃ


「…ねぇ、風」

「はい、なんでしょう?」

マーモンは自分に着せられた風と同様の鮮やかな橙色の中華服をジッと見ながら自分の背後へと回り髪を結っている風へと声を掛ける。

「なんで僕、君の中華服着せられてるの?」

「いえ、手持ちに仮装用の衣装が無かったので…世の中、彼シャツというものが流行っているらしいですし、彼シャツならぬ彼中華服です」

「君の情報って、ちょいちょい遅れてるよね」

「え?」

…しかし…。

マーモンは自分が着ている中華服をジッと見つめる。
風のサイズのもののせいか、やはり自分の体型にあっておらずぶかぶかで、ズボンの裾も余っていたのでまくり上げている。

これのどこが、仮装だというのだろうか。
ただ単に、風の服を身に纏っているだけ…。












風の…服を…。












「…マーモン、どうしました?
顔が赤いですが」

「…別に、なにも」

変に意識をしてしまい、自分の顔に熱が集まってしまう。
そのせいか赤くなってしまった顔を風はひょこっとのぞき込み、マーモンはその視線から逃れるように袖で自分の口元を隠した。

あーもう、風のせいで変に意識しちゃったじゃないか。
そもそも、こいつの服を着ているからってそんな気にすることは…。

「はい、出来ましたよ」

「む、なにがだよ」

風が触れていた自分の後ろ髪に普段は感じない違和感があり、そっと触れてみると、結われているのか凹凸があるのがわかる。
風は満足げな表情を浮かべながら手鏡をマーモンへと差し出し、不思議に思いながらも受け取ると、風よりも短いおさげになっているのがわかった。

「ふふ、これで私の仮装が完成ですね」

「君の仮装って…ただ君の服着て同じ髪型にしただけじゃないか」

「ですが、私とは似つかないほど可愛らしいですねぇ
流石マーモン、私の奥さん」

「ムム、ちょっと…」

マーモンに抱きしめながら頬と頬を擦り寄せて幸せそうに感想を述べる風の直球な言葉に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「ッ…あーもういいから早くケーキちょうだいよ」

「あ、仮装で満足して忘れてました…」

「忘れないでよ、僕としてはそっちが重要なんだから
ほら、早くして?早くしないと…」










「…悪戯、するよ?」











「…」

「…なんてね、ほら、早…」

冗談混じりに言った言葉。
風の反応がなく、恥ずかしさを堪えるように話を変えようとすると、風はマーモンの肩をガシッと掴みだす。

「え、な、なに?」

「…して…すか…」

「ごめん、なに言ってるかわからな」

小声で聞こえる風の言葉がうまく聞き取れずにもう一度言うように言うと、風は息を荒くしながらマーモンへと顔を近づけ、その勢いに思わずビクッと身体を跳ねさせた。

「私に悪戯、してくださるのですか?」

「悪戯…って、いやさっきのは冗談だから
なにをそんなに真に受けてるのさ」

「ならこのままケーキを渡さなければ悪戯せざるを得ないですよね?」

「いやいやいや!なんでそんなに悪戯してほしいー、みたいに言うんだよ!
そもそも、なんで興奮むぎゃッ!!」

グググッの自分の肩を掴む風の手に力が込められていき、痛みから表情を歪ませるも、風はそのままの勢いにマーモンをソファーの上へと押し倒し、マーモンは声をあげる。

「お、おい風!」

「…マーモン」











「私に悪戯、してくれませんか?」

「すッ…るわけない…ッ!!」










→おまけ
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