お菓子をくれなきゃ
「き…恭弥…早かったですね…」
骸を視界に入れると不敵な笑みを浮かべながら雲雀は骸の腕を掴み、骸は引きつった笑みで応対をした。
雲雀は骸の後ろにいるマーモンをチラリと一瞥した後に骸へとすぐに視線を向ける。
「随分とお楽しみのようだね、骸」
「…まだ楽しむには不十分ですが…ここからが面白いところだったというのに」
「へぇ、僕以外の奴と?」
「…」
「…」
な、なにこの修羅場的な雰囲気は…。
2人の間に流れる不穏な雰囲気にマーモンはタラリと冷や汗を流す。
今の状況、明らかに僕はこの場にいるのは適切じゃない気がするんだけど…。
…って、これあれだ。ルッスーリアが見てたドラマの流れに似てる。
自分の妻が浮気相手の所にいるのを察した夫が、そこに突撃するっていう…あれ?そうなると僕浮気相手的な立ち位置にならない?浮気相手ではないけど。
…浮気相手ではないにしろ、雲雀恭弥からしてみたら…。
「…まぁ、いいよ
詳しい話はまたあとでゆっくりと聞いてあげる」
「ッ?!」
雲雀は一呼吸置いた後に骸の腕を掴みグイッと引き寄せるとマーモンへと背中を向けて骸を引きずるように部屋から出ていく。
「ちょ、ちょっと恭弥?!
僕はまだ彼と」
「知らないよ、僕を一番に優先して
そこの術士」
「!…な、なに?」
雲雀は立ち止まりマーモンへと振り返ると、マーモンは驚きながらも言葉を返す。
「君にも迎え、来てるから」
「む、迎え?僕別に今日誰とも会う約束してな…」
いや、ちょっと待て。
マーモンは雲雀の言葉を聞いて特に思い当たる節はなかったが、雲雀の姿を見て衣服が所々汚れ、乱れている事に気付く。
…明らかに、誰かと戦闘をしてきたような…そんな姿に、1人の人物が思い浮かんだ。
「…君、今まで誰と会ってた?」
マーモンからの問いかけに雲雀は瞳をスッと細めた後、くるりと背中を向けてしまう。
「帰るよ、骸」
「帰るって…いやだから、まだ僕は彼に用が」
「そんなに僕よりも彼といたいの?」
骸がマーモンへと視線を向けながら言葉を発すると、雲雀は骸の顔を覗き込んでジッと見つめ、骸は"うッ"と言葉を詰まらせた後、諦めたかのようにため息をついた。
「…仕方ありません…
マーモン、本日はこれで失礼します」
「…君もなんだかんだ言って、彼に甘いね」
「それはお互い様でしょう?」
「ほら、行くよ」
「って、ちょっと待ちなよ
僕の質問の返答がまだ済んでいないだろう?」
なんだかんだ雲雀に甘い骸を見ていたマーモンだったが、自分の質問の返答がまだされていないことに気付き、マーモンは雲雀に声を掛けるもこれ以上話すつもりはないのか、雲雀は先に部屋から出ていってしまった。
「あ、骸待って
この幻術解いてからせめて帰ってくれる?」
「…仕方ありませんね」
雲雀に連れて行かれる前にとマーモンは自分にかけられた幻術について言うと、骸はスッと指をマーモンへと向け、服が着ていたパーカーに戻り安堵の息を漏らす。
「また今度お会いしましょう、それではまた」
「あぁ、またね
今度はイタリアのお菓子持ってくるよ」
そう言葉を交わすとパタンと扉が閉められ、一人残されたマーモンはしんと静まり返った部屋の中で小さく息を吐いた。
「…さて、僕はこの残ったお菓子を食」
そう口にしながら先ほど骸と腰掛けていたソファーに身体を向け、マーモンはピタリと動きを止めた。
そこには、先ほどまでいなかったであろう風の姿があり、マーモンと目が合うとにこりと笑みを浮かべる。
「お邪魔していますよ、マーモン」
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