口が裂けても言うものか
「…それで、どういうことか説明してもらおうか」
エレベーターが到着し、お使いの書類を部下へと手渡した2人。
ボンゴレ本部内にある誰もいない一室で、リボーンはソファーへと腰掛け目の前に立ったままのマーモンを瞳を細めながら見つめて問いかけた。
「…別に…日取り間違えただけだよ」
「嘘つけ、お前がそんな間違いするわけねぇだろ」
「…」
「…そんなに俺と一緒にいたくなかったのか?」
黙り込んでしまうマーモンへと、あまり口にしたくなかった言葉を出すと、マーモンはピクリと身体を反応させ、リボーンへと顔を向ける。
「…ちが…」
「ならどうしてだ?」
「…」
「…別に怒ってるわけじゃねぇ」
「!」
"ほら、来い"と立っているマーモンの片腕を掴んで引き寄せるとそのままぐらりとよろけたマーモンを自分の太ももの上にのせて向かい合うように座らせ、胸の中へと収めてしまう。
「…なんで嘘ついてまで、俺から離れようとしてんだよ」
「…言わない」
「…そりゃ、確かに俺もお前の事をほったらかしにしてるところはある
お前、基本的に人に縛られたりするの嫌なの分かってるからな」
自分の胸板に顔を押し付けだすマーモンの頭に手を伸ばして優しく撫で、言葉を選びながら話を続ける。
…話すつもりはなさそうだな。
ほぼ黙ってばかりのマーモンを見つめながら、頭に顎をぽふりとのせる。
さっき、エレベーター乗る前に遠慮がちだがくっついてきたし、その後にキスをしたら、マーモンも乗り気だった。
それなのに、なんで嘘をついてまで俺と一緒にいるのを拒むのか…。
"恋人って言うけど、お互いの仕事上会うこと滅多にないし、かといって会ってもそう恋人らしいことしないし"
"これって、恋人って言えるのかい?"
…そういえば、こいつにこんな事を言われたのは初めてだな。
それだけ会えずに不満が溜まっているのか、あるいは…。
「…お前、俺のこと好きか?」
「…」
「…それも言いたくねぇと…
それとも、他に好きな奴でも出来たか?」
「…言ったろ…出来るわけないってさ」
「ならなおさら分からん、俺の負けだ」
問いかけに否定され、これ以上なにも思いつかない。
リボーンはお手上げと言うように軽く両手を上げた後、マーモンの横髪をすくい上げる。
「…ごめん」
「なんで謝んだよ、お前らしくねぇ」
「…君を困らせるつもりはなかったんだけどね」
「まったくだ
そう思ってんなら理由、言えるよな?」
「…ん…やだ」
「…」
この流れで嫌がるのかよ。
顔を見せないままのマーモンにため息をつき、リボーンはマーモンが被っているフードを降ろした。
特にマーモンは抵抗することはなく、藍色の髪が姿を現す。
「顔も見せたくねぇのか?」
チュッと頭部に軽く口づけをすると、マーモンはしばらくしてからゆっくりと顔をリボーンへと見せる。
その表情は眉を下げ、少し困ったような表情をしていた。
「…どうしたよ、んな可愛い顔して」
「…君は…」
「?」
マーモンが言葉を続けようとするも、少し黙り込んだと思えば"なんでもない"と再び顔を隠すように抱きついてくる。
うーん、これは相当だな。
しかし、理由がわからねぇ以上、下手な対応が出来ねぇし。
「…時間」
「ん?」
「…僕と一緒にいて、時間…大丈夫なの?」
片頬をリボーンの胸板へとつけながらぽつりと呟くようにマーモンが聞いてくる。
リボーンはスマホをスーツのポケットから出して確認をしてみる。
いつの間にか、ボンゴレ本部に来てマーモンと一緒にいてから1時間が経っていた。
「…今日はもう予定はねぇよ
急ぎの用事もないからな
言ったろ?お前と一緒にいたい、ってな」
「…ふぅん…そう…」
スマホをしまいながら言うと、マーモンの表情がほんの少しだけ柔らかくなったような気がした。
…こいつ…もしかして…。
〜♪
不意に先ほどしまったスマホの着信音が鳴り、再度取り出すとそこには愛人の名前が映し出される。
その画面が視界に入ったのか、マーモンはピクッと身体を反応させ、少し間を置いてからリボーンの胸板へと顔を埋めた。
心做しか、自分に抱きついている手の力が強くなった感覚を感じる。
「…電話、出ないの?」
「…今はお前のことだけ考えたいからな」
「…はぁ…いや、ちゃんと出てあげなよ
さすがにこんなに鳴り続けてるのに出ないのは可哀想だと思うんだけど」
鳴り止まずに鳴り続けるスマホ。
マーモンは小さく息を吐いてリボーンの太ももの上から退こうと抱きついていた手の力を緩める。
「マーモン」
「僕のことはいいから」
「よくねぇ」
フードを深く被り直し、腰を浮かせるマーモンの腰に手を回してギュッと自分に寄せて密着をさせる。
マーモンは驚いたように瞳を丸くしており、リボーンは瞳を細めながらマーモンを見つめた。
「…よくねぇよ」
「…」
鳴り続けていたスマホが静かになり、沈黙が流れる。
「…だめだね、なんか…」
しばらくの沈黙の後、マーモンは深いため息をつきながらぽつりと呟きフードを脱いだ。
先ほどまで見れなかったマーモンの顔がしっかりと見て取れる。
困ったような、寂しいような表情にリボーンは頬へと手を伸ばして優しく触れると、マーモンはその手に猫のようにすり寄った。
「…リボーン」
「…なんだ?」
「僕らしくもないこと、言ってもいいかい?
もしかしたら、君に幻滅されるかもしれないけれど」
「…おぅ、言ってみろ」
「…あのさ…」
「僕だけを見てほしいって…君に会う度に、思ってしまうんだ」
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