口が裂けても言うものか


「…恋人、ねぇ…まったく、どの口が言っているのか」

リボーンの口から発せられた単語に、マーモンはわざとらしく大きなため息をつきながら言う。

「なんだよ」

「恋人って言うけど、お互いの仕事上会うこと滅多にないし、かといって会ってもそう恋人らしいことしないし
これって、恋人って言えるのかい?」

手に持っていた書類の束を抱えて歩みを進めると、リボーンもそれに合わせて歩き出し、マーモンの持っていた書類の束をひょいっと取り上げた。

「不満か?」

「不満とかそういうのじゃなくて、この関係を維持している意味があるのかってこと」

「なんだ、他に好きな奴でも出来たのか?」

「できるわけない
というか、そんな浮ついた年でもあるまいし
そういう君はどうなのさ?
愛人とよろしくしてるんだろう?」

「まぁな、愛人達は俺がいないと寂しがるからしょっちゅう会ってるぞ
どこぞの誰かさんとは大違いだな」

「そう、そのどこぞの誰かさんも大変だろうね
4人も愛人いる奴が恋人でさ」

「…お前、今から予定あんのか?」

声だけかけてくるリボーンをチラリと横目で見た後、マーモンはすぐに視線を正面へと向けた。

「…あるに決まってるだろう?
この書類をスクアーロに届けないといけないからね」

「届けるだけなら部下使えよ」

「重要書類なんだよ、それを部下になんて運ばせられない」

「ならその書類届けた後は?」

「任務」

「…」  

ピシャリと自分の予定を即答したマーモンにリボーンは歩みを止め、それに合わせてマーモンを歩みを止めてリボーンの顔をのぞき込む。
リボーンの表情は眉間に皺を寄せて険しくなっていた。

「ねぇ、持ってくれてるなら早く来てくれない?
時間なくなっちゃう」

「…はぁ…お前がそういう奴なのは今に始まったことじゃねぇもんな」

「ムム、馬鹿にしてるの?」

「してねぇよ、お前らしいなって言っただけだ」

「その割には棘のある言い方だったけど」

「下に車待たせてんだろ?
そこまで運んでやる」

歩き出すリボーンの後を追うように2、3歩程遅れて歩いていくマーモン。

「いいよ、君だって用があってここに来たんだろう?
僕に無理に付き合わなくてもいいよ」

「別に無理してねぇよ」

「でも」

「マーモン」

マーモンの言葉を遮るようにリボーンに名前を呼ばれ、きょとんとした表情をリボーンへと向けた。
すると、リボーンはマーモンには目を向けずに口を開く。












「俺が、少しでもお前といたいんだよ」











「…」

「…だめか?」

「…いや…まぁ…」

リボーンの発言を呆然と聞いていたマーモンだったが、再度声をかけられてハッとし、呟くように小さな声で返事をする。

「僕としては運んでくれてるし、別に…いいけど…」

「…俺としては、もう少しお前と居たいんだがな
お前は違うのか?」

「…」

エレベーターの前へとたどり着き、リボーンがそう声を掛けるもマーモンは返事を出来ずにジッとエレベーターがたどり着くのを待った。
返事をしないマーモンにリボーンは何も言わず、隣に立って同じようにエレベーターを待つ。









…別に、僕だって…一緒にいたくないわけではない。











「…!」

マーモンはスッとリボーンへと歩み寄り、ほんの少しだけ、腕を軽く触れ合わせた。
それに気付いたリボーンは軽く目を見開き、マーモンへと視線を向ける。

「…なに」

その視線に気付いたマーモンは少しだけ顔を俯かせた状態でリボーンへと声をかけた。
リボーンが返事をしようと口を微かに開いた瞬間、エレベーターから"チンッ"と到着を知らせる音が聞こえ、ゆっくりと扉か開かれる。
中には誰もおらず、リボーンが先行して歩いた後にマーモンも続いて中へと入ると、自分が降りる予定の1階のボタンを押した。













扉が閉められ、エレベーターが動き出す。











「…マーモン」

「…今度はな」

ガンッ!

「ッ?!」

名前を呼ばれたと思えば、いきなり身体を壁へと勢いよく押し付けられて痛みから表情を歪めているとリボーンの顔が目の前へと現れてそのまま唇を重ねられる。

「む…んぐ…」

そのまま貪るようにキスをされ、マーモンが口を開くとリボーンは瞳を細めて舌を滑り込ませお互いの舌を絡めだす。

「は…ッ…ぁ…」

背中へと手を回され、力強く抱きしめられるとマーモンはそれに応えるかのようにリボーンの首へと手を回してギュッと抱きしめ返す。










ほんの数十秒のこの時間が。










やたらと、長い時間のように感じた。











「…ぷは…ぁ…」

階を示すランプが1階へと近付いていき、リボーンが口を離すとマーモンは酸素を欲するかのように荒い呼吸を繰り返し、リボーンにしがみつく。
リボーンは眉間に皺を寄せながらマーモンを抱きしめ、おもむろにスマホを取り出して何処かへと連絡をし始めた。

「…よぉ、スクアーロ
マーモンに今、使いを出してて書類届けるように言ってるらしいな
あと、この後任務があるって聞いたんだが、その任務…あ?」

どうやらスクアーロに電話をしていたのか、微かにスマホからスクアーロの声が漏れ出て会話の内容が聞こえてくる。
その内容を聞きながらマーモンは静かに瞳を伏せ、リボーンの胸板へと顔を埋めた。
頭上からふと聞こえるリボーンの困惑したような声色。

「…そうか、マーモンからそう聞いてたんだが…
…書類の方も…そうか…なら、車運転してきた部下に手渡しておく
マーモンは俺の方で預かるがいいか?…あぁ、わかった」

電話を終えてスマホのボタンを押したリボーンは、自分の腕の中で黙り込んでいるマーモンを見下ろした。

「…マーモン」

「…なにさ」











「お前、嘘ついたな?」










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