いつもと違う姿の壁


「…ん…うむ…?」

なんだろ…身体が、浮いて…。

目が覚めたマーモンはゆっくりと瞳を開き、眠気眼で視線を動かす。

ここ…廊下かな…でも僕…。

「目覚めたか?」

「む?」

頭上から聞こえてくる声にマーモンは顔を向けると、スクアーロの顔が近くにあり驚いて目を見開いた。

「あれ、スクアーロ…?」

「さっき声かけた時返事してたから起きたのかと思ってたが、寝ぼけてただけだったんだな」

「僕、ベルの部屋にいたはずなんだけど」

「お前が寝て引っ付いて離れねぇから、ベルから回収頼まれたんだよ…ったく、手間かけさせやがって」

「…あぁ」

確か、ベルの部屋でお菓子食べてて…スクアーロの話ししたら…。

「手間かけたね」

「まったくだ」

「僕、自分で歩けるから降ろしてよ」

「降ろさねぇよ、どこぞの術士が"ぎゅーしてくれないとやだ"とか駄々こねてたからな」

「なに言ってるの、僕がそんな事言うわけないだろう?」

「ほぉ、なら降ろすか?」

「むむ…」

こちらを一瞥しながら言うスクアーロにマーモンは唸り声を漏らした。
 

…せっかく、触れてもらえてる…のに…離れるのは…。
 

「…やだ」

スクアーロの胸板に片頬を押し付けてぽつりと呟く時と、その呟きが聞こえていたのかスクアーロの視線が自分から進行方向へと向いた。

「なら文句言わずに抱かれてろ
もう俺の部屋まですぐそこだし」

「…?なんでスクアーロの部屋なの?
僕の部屋のほうが違いじゃないか」

「あ"?そりゃ…」

「…」

「…」

「…え、なに?なんで黙るの?」

自分の問いかけに黙り込むスクアーロ。
マーモンはその様子に不安になりながらもスクアーロの顔を覗き込んだ。

「…お前に書類整理やらせるからに決まってるだろぉ」

「えぇ、すごい小声」

「うるせぇ、文句言わずについてこい」

「ついてくるもなにも、君に連れて行かれてるんだよなぁ…」

そんな会話をしていると、いつの間にかスクアーロの部屋へとたどり着いており、スクアーロは扉を開けて中へと入った。
普段なら入ってすぐにあるソファーに座って書類整理をするはずが、そこをスルーして部屋の奥へとスクアーロは進んでいく。

「あれ、書類整理するんじゃないの?」

「…あとでな」

「あとで、って…期日近いやつあったのに大丈夫?」

「近いのはお前がいねぇ間に処理した」

「そうなんだ…むむ?」


ならなんで、書類整理をやらせようとしたんだ?


ガチャリと扉を開けて寝室へと入ると、スクアーロはマーモンをベットの上へと優しく下ろす。
マーモンはきょとんとしながらスクアーロを見上げた。

「どうしたんだい、スクアーロ?
昼寝でもするの?」

「…」

「ねぇ、さっきから僕とちゃんと会話する気あるの?」

「うるせぇ、今精神統一してるから待ってろ」

「はい?」

なおさら意味がわからない。

「君、なんかおかしいよ?」

「…」

「スクアーロ」

「…お前なぁ…」

「むっ」

しつこいくらいに声を掛けると、スクアーロは諦めたように息を吐いてマーモンの隣へと腰掛け、マーモンの脇を掴むと自分の太ももの上へ向かい合わせるようにのせた。

「状況、わかってんのか?いや、わかってたら安易に言わねぇよな」 

ジトリとした目つきで見られ、マーモンは首を傾げる。

「状況…って、なんのこと?」

「別に俺は、お前に触りたくなくて触らなかったんじゃねぇ
そこは、わかってるな?」

「…ん…」

頬に手を伸ばされて、優しく触れられる。
その手の温かさがちょうどよく、マーモンは気持ちよさそうに瞳を細めながらスクアーロを見つめた。

「それは、わかってるよ…
でも、あそこまであからさまにされるのは気分がいいものではないよ」

「あ"ー…そこはすまねぇ」

「…それで、そんな君が今、僕に触れてくれているのはなんでだい?
あそこまで触れないようにしてたのにさ」

「そりゃ、お前にあんだけ強請られればな」

「…?僕、そんな事した覚えないけど」

「してたんだよ、お前寝ぼけてて覚えてねぇだろうが
"ぎゅーしないならベルといる"って、ベルに抱きつきながらよ」

「…」

まったく、記憶にない。

なにか言いたげな眼差しで自分を見てくるスクアーロの視線に耐えきれず、マーモンはススーッと顔を逸らしてしまう。

「お前の今の姿が小さいにしろなんにしろ、自分以外の男に抱きつく姿見せられりゃ…いい気はしねぇよな?」

「うぐぐ…だ、だから僕はなにも覚えてないって」

「だったらなおさら、たちが悪ぃ」

「むぎゃ!」

グンッと勢いよく腕を引っ張られ、そのままの勢いでスクアーロの腕の中に収まり、胸板へと顔をぶつけてしまう。

「いった…き、君ね…」

鼻をぶつけ、痛みから瞳を潤ませ鼻を押さえながらスクアーロに文句を言おうと顔をあげると、鼻と鼻がくっついてしまうほどの距離にスクアーロの顔があった。

「…スクアーロ、近い」

「…お前よぉ、この状況でもなんも思わねぇのか?」

「思う?なにをさ?」

「…だよなぁ、お前だもんな」

マーモンからの返しにスクアーロはそうぽつりと呟くと、ギュッと抱きしめる力を強めてマーモンの首筋に顔を埋めた。

「ちょっと、くすぐったい」

「…俺からしたら、お前の姿が小さかろうが大きかろうが関係ねぇんだ…愛してる奴なんだからよ」

「…愛…って…な、なんだよ
いきなり君らしくないこと言うじゃないか」

スクアーロの口から出てきた、いつもの彼とは似つかわしくない言葉。
その言葉に頬に微かに熱が集まってしまい、誤魔化すように顔を逸らした。

「その好きな奴が無防備に俺に抱きついたりしても、今のお前には手が出せねぇ
まじで壊しちまうかもしれねぇからな」

「…え…」

「それ我慢するために、お前に触れるの控えてたんだがなぁ
おかげで今、俺はすげぇ苦行強いられてるわ」

「…ちょ…ちょっと待ってスクアーロ」

「あ"?んだよ」

淡々と話し続けるスクアーロに一旦制止をかけると、スクアーロは眉間に皺を寄せながらマーモンを睨むような目つきで見る。

「…えっと…僕の勘違いなら悪いんだけど…もしかして、君…」











「僕に触ると…その…性的興奮覚えても発散する術がないから触ってくれなかったの?」

「お前、言い方ぁ…」










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