とある科学者と術士の話
風は自分の太腿の上にマーモンの頭をのせ、"うーん"と唸っている様子を見つめる。
「…マーモン」
「…なんだい?」
「自分で聞いていてなんですが…無理にお話しなくてもいいんですよ?」
「…」
「貴方にとって過去の事は、相当お話をするのに覚悟がいりそうな感じがします
なので、貴方の気持ちの決心がついてからでも」
「…別に、そういうわけでもない
そこまで覚悟を決めて話すことのほどでもないんだよ」
マーモンはそう言うところんと風の腹部へと向きを変えた。
「ただ…うん…過去の事、というか赤ん坊になった瞬間の事を思い出すが怖いんだよ」
「…怖い?」
「確かに、この世界に入っている以上善い行いをしてきたかと言うとそうではない
むしろ、自分が生きる為に悪い事ばかりをしてきた自覚はある
だけど、だからといって僕が"呪い"を受けて赤ん坊にされるなんて理不尽あっていいことではない
謎の光を受けて次の瞬間、自分の手が、体が小さくなって…君や他の奴も同様に呪われて…あの時は…」
ふと瞳を閉じ、暗闇が広がった。
「目の前が真っ暗になった感じがしたよ」
「君もそうだろう?
赤ん坊になった時、君も思わなかったかい?
"なぜ自分が、このような呪いを受けなければいけないのか"ってさ」
「…確かに、そうですね」
風はふと瞳を閉じて、マーモンの頭を優しく撫でる。
マーモンの顔は今、どのような顔をしているのか。
見えないので分からない。
だけれども…彼が、私達の中で1番…元に戻りたいと願っていた。
その様子からして、赤ん坊になった時の絶望感は計り知れない。
「私も、なぜこのような事に巻き込まれなければならないのか、そう思っていました…しかし」
「…?」
風の言葉が止まり、不思議に思ったマーモンが顔をチラリと向けると風はにこりと微笑んだ。
「貴方に言うと不快に思われるかもしれません
ですが、この"呪い"がなければ私は貴方に出会うことができませんでした」
マーモンの頬へと手を伸ばし、愛おしそうに見つめながら優しく触れる。
「…マーモン」
「私は、貴方に出会えて…本当によかったです」
「…!」
「まぁ、だからといって"呪い"を許したわけではありませんがね
ですが、貴方の赤ん坊姿を見た時は目を奪われましたねぇ…あまりの愛らしさに」
「…」
「あ、貴方の今の姿に不満があるわけではありませんよ?
今も昔も変わらない、その姿も、貴方の全てを愛しているのですから」
「…ふふ」
笑顔でマーモンの容姿について褒めだす様にマーモンは思わず吹き出してしまう。
「…君、赤ん坊になった時に第一に考えたのそれなの?」
「え、当たり前じゃないですか
私の目の前にマーモンがいましたし、一番最初に目に入ったのですから」
「まったく…馬鹿馬鹿しいったらありゃしないね
人が絶望していた時に、呑気なものだよ」
「それについては…まぁ…あはは」
「でもまぁ、話す決心はついたよ」
マーモンは横を向いていた体を仰向けにし、風の顔をジッと見上げながら口元に笑みを浮かべた。
「僕の話、聞いてくれるかい?」
「…えぇ、貴方が望むのならば」
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