嫌味な奴に一泡を


「…もう完全に消えているな」

ヴェルデはマーモンについていた猫耳と尻尾が完全に無くなっていることを確認するとそう言いながらパソコンに体を向けた。

「まったく、今回はひどい目にあったよ」

「マーモン、貴方がよく話も聞かずに引き受けたのにも原因はありますから、それはお忘れなきようお願いします」

ソファーに座り疲れたように息を吐き、クッキーを頬張りながら言うマーモンに風は背後から釘を差す。
マーモンは"チッ"と小さく舌打ちをすると風へと体を向ける。

「そもそも、なんで君は今日もついてきたんだよ
僕はもう大丈夫なんだけど?」

「いえ、少しヴェルデとお話がありまして」

「あ、そうだったのか
それなら僕は先に帰るとするよ」

「なんだ、仕事か?」 

「そうさ、そんなに難しい任務じゃないから夕方頃には終わるかな」

「ならその頃に合わせてお菓子用意しておきますね」

「うん、わかった
それじゃヴェルデ、振込、しておいてよ?」

ひらりとヴェルデへと手を振ると、マーモンはそのまま霧となって姿を消してしまう。

「…あいつも、お前の扱いに慣れたな」

「ふふ、まるで夫婦のようですよね?」

「そこまでは言っていない」

呆れたような表情を浮かべていたヴェルデだったが、パソコンに顔を向けたまま珈琲の入ったマグカップに口をつけた。

「それで、どうだった?」










「今回、お前が依頼をした薬は」







「…えぇ、とても満足した結果でしたよ
流石ヴェルデですね」

満足そうに答えながら風は猫化したマーモンと過ごした日々を思い出し、表情を緩ませた。

「まぁ、私も元々興味がありいずれ作ろうとはしていたからな
今回は利害が一致しただけだ」

「ですが、やはり水と発情期については今後の課題ですかねぇ
私としては有り難いですが、今後実用化するにあたりこの2つはいらないかと」

「確かにそうだな
しばらくは改良する事はしないが
…それで、結局あのあとはどうしたんだ?」

パソコンから目を離し、頬杖をつきヴェルデは風に問いかける。

「あのあと、とは?」

「とぼけるな、マーモンに発情期の症状が出たと私に電話をした後の事だ
そのあと連絡も無しに薬だけ取りに来て、すぐに去って行ったからな」

「…流石にやってませんよ
マーモンの本心ではありませんしね
そこまで獣ではないです」

「おい、目が泳いでいるぞ」

「いえ、本当にしてません!
襲いかけましたがマーモンが頭を打って気を失ってしまいましたので!
…ですが…たぶん…いえ、確実にマーモンが気を失っていなかったら危なかったです」

「いつも押し掛けているくせにそこは紳士なんだな」

「そりゃ、そうなりますよ
やっと、私に心を開きかけているのですから
それを無駄にはできません、慎重にもなります」

「…まぁ、私としてはお前らがどうなろうと知ったことではないが」

「なら、なぜ聞いたんですか」

「あいつが実験に協力する度に疑われるのも迷惑なんでな」

「そりゃ、マーモンは魅力的な方ですからね
いつ誰が、彼を見て恋に落ちるか分かりませんから
あ、なんでしたら今からマーモンの魅力について貴方に語ってもいいんですよ?
夕方頃にはマーモンが帰ってきてしまうので、半分くらいしか教えられませんが」

「私はそこまで暇ではない、語ろうとするな」









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