嫌味な奴に一泡を
『おい、聞いているのか風』
「うるさい」
スマホから聞こえてくるヴェルデの声にマーモンはそう言うと通話の終了ボタンを押してしまった。
…ヴェルデも、簡単に言ってくれますね…。
風は口元に微かな笑みを浮かべながらマーモンを見上げ、頬に一筋の汗が伝う。
風の視線に気付いたのかマーモンは前のめりになって喉を鳴らし、胸板に顔を擦り付ける。
"発散した方がいい"
ヴェルデの言った言葉を脳内で復唱をし、マーモンの顎を撫でる。
「ん、ん…にゃあ…」
嬉しそうに猫のような鳴き声を漏らし、手に顔を擦り寄せる様に思わず顔がにやけだす。
発情している猫の発散方法なんて1つしかないのは彼もわかっているだろうに、なんて酷な事を言うのだろうか。
発散するということは、マーモンと"そういう行為"を行うこととなる。
私としては満更でもない。いや、かなり嬉しい。
いずれ私と夫婦となった暁にはする事になりますし。
ですが、今の状態のマーモンにしていいのかと言われれば…躊躇をしてしまう。
だって彼は、薬の影響で正気を失っているだけ。
普段は私の事を嫌っている。
そんな私に、正気でなかったとはいえそのような事をされれば…確実に自己嫌悪に陥るだろう。
今、この状態の彼を取るか…普段の彼を取るか。
「風、もっと、触って」
考えを巡らせていると撫でていた手がおざなりになっていたのか、尻尾を風の腕へと絡ませながら声をかけてくる。
「…どこに触れてほしいですか?」
器用に自分の腕に絡まる尻尾に優しく触れながら問いかけた。
尻尾に触れると腰を少し上げる仕草を見て、"本物の猫のような動きだな"と感心してしまう。
「む…ん…全部…」
「全部…?」
「うん、全部…僕の体…頭も、顔も…全部」
普段の凛としている様子とは違い、甘えているかのような様子。
風は軽く目を見開きながら見つめていると、マーモンは風の手を取り自分の頭、頬と順に触らせていき首元へとだんだんと手を下へと移動させていく。
熱のこもったような瞳に見つめられ、それから目が離せなくなりくらりと視界が揺れるよう。
ッ、これは…やばい…。
脳内に直接マーモンの声が響いている錯覚に陥り、風はぶんぶんっと飲まれまいと顔を横に振った。
相手の脳や感覚を支配するのが得意な術士のせいか、私も引っ張られそう。
自分の心拍が上がり、呼吸がだんだんと荒くなる。
「ッ…しかし…」
「風」
己の欲と葛藤をする風の様子にマーモンは小さく口角をあげると、スッと風の耳元へと唇を近付けた。
「触って?」
「ッ」
「ッむぎゃ!」
風の頭の中でなにかが切れるような音が聞こえ、マーモンの肩を掴むとそのままお互いの体勢を入れ変えてしまい、先程とは形勢逆転し風はマーモンの上に覆い被さり見下ろした。
「…マーモン、そんなに誘われてしまうと流石の私も、もう我慢出来ません」
「…」
「貴方のことを思ってなんとか耐えていましたが、そこまで貴方が望むのであれば、私は…」
「…」
「…?」
自分の言葉に反応を見せず、黙り込んでいるマーモンにふと疑問を抱いた風は"マーモン?"と名前を呼びかけながら顔を覗き込んだ。
…あ。
「…き、気絶してる…?」
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