僕を好きな君と君が嫌いな僕
シュッ。
キンッ。
三人の間の空気が一瞬固まったような感じがし、ベルは風目掛けてナイフを一本取り出して投げてきた。
ナイフを見た風はマーモンの手を握っていた手を離して肩を抱き寄せると、飛んできたナイフを蹴り、床へと叩き落とした。
ナイフが床に"カランッ"と金属音を立てながら落ち、再び静寂が訪れる。
「...危ないですねぇ、マーモンに当たったらどうするんです?」
ベルが追撃しないのを確認すると、風はやれやれといったようにナイフを拾い上げてベルへと投げ渡す。
「はぁん?どーせマーモンは自分で避けるだろうから別に心配してねぇよ
つーか、もしかしてお前が侵入者なわけ?」
「侵入者、とは失礼ですね
私はただ、マーモンに用があって伺ったまでです」
「...へぇ、のわりにはうちの門番気絶させてるけど?」
自身へと向かってくるナイフを指で挟んで止めると、ベルはじろじろと風を見た後に視線をマーモンへと移した。
「マーモン、こいつの言ってること本当なわけ?」
"いいや、違うよ
こいつが侵入者で合ってる"
...って、言ってやりたいのが本音。
だけど、無関係を装うと"それじゃ、なんで早く捕まえないんだ"だの言われてめんどうになりそう。特に相手はベルだし。
...しかたない。
「...あぁ、そうだね
彼の言う通りさ」
「「!」」
この間、考えた時間は1秒。
マーモンの言葉に二人はピクッと小さく反応を示した。
「僕らアルコバレーノは沢田綱吉のおかげで呪いが解かれたに他ならない
それで、ボンゴレ側の守護者の育成に協力することになっているんだ
僕がそんな事協力するいわれはないけど
それ以外にも、バミューダ側の監視を込めて時折集まることになったのさ
彼は、その集会の日程を報告しに来たわけ」
「ほぉん...」
嘘だけどね。集会がたまにあるのは本当だけど。
ベルには悪いけど、これ以上面倒なことになるのはごめんだから。
つらつらと自らでも驚くほどスムーズに嘘が並べられていく。
マーモンの言葉を聞いたベルは交互にマーモンと風を見た後にナイフを懐に仕舞った。
「マーモンがそういうならいいけどよ
事前に門番に伝えとけよ」
「任務前にいきなり連絡があってね
忘れていたのさ
今度からは気を付けるよ
ベル、悪いけど彼とまだ話が終わっていないからスクアーロに誤解だったこと伝えといてくれるかい?」
「はぁー、めんどくさいんだけど」
「まぁまぁ、あとで一緒に買い物付き合うから」
「言ったかんな?そーいうことなら王子許しちゃう」
マーモンの言葉に満足げにはにかんだ後、ベルは風を一瞥し部屋から出ていった。
「...マーモ」
「勘違いするなよ」
二人だけになった部屋。少しの沈黙の後に風がマーモンの名前を呼んでくるのでそれを遮りながらビッと指差す。
「君を庇うなんて不本意だけど、これ以上アジト内を混乱させたくないからね
もし今寝てるボスが起きたら大変だし」
「あ、知ってます
そういうのってツンデレっていうんですよね」
「...君からそんな言葉を聞くことになるとは思わなかったんだけど...ふぁ」
ベルが大人しく部屋から出ていった安堵から忘れていた睡魔が顔を出して口から欠伸が漏れでる。
「さて、それでは私はお暇しましょうか」
マーモンの様子を見ていた風はそう告げると窓の方へと歩き出して"ガラッ"と窓を開けて足をかける。
「はいはい、もう来るなよ」
「つれないですねぇ
ですが、マーモン...今度は貴方の事を見失うようなへまはしませんから」
「見失うって」
「とりあえず今日はお疲れのようですしね
それではマーモン」
「また、明日」
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