嫌味な奴に一泡を


ッ…これは…。

風は自分の頬に触れ艷やかな表情を向けるマーモンに戸惑いながらも顔が離せずにいた。

一体なぜマーモンがこのような事になってしまっているのか…。
先程、私が抱っこしていた時はそのような兆候はなかったというのに。

…というか…"良いこと"ってなんですか…!
この状態からして…。

自分の頭に思い浮かぶ考えに風はごくりと息を呑んだ。

ですが、普段のマーモンが自分の身を差し出すなんてことをするわけがない。
私に好意が向けられるのは喜ばしいことですが、これは本当にマーモンの意思なのか…。

…そういえば、2日前にも同じような事があった気が。
確か、シャワーが怖いと言って私がマーモンの体を洗った時でしたっけ。
その時もこんな感じでマーモンが迫ってきて…驚きのあまりシャワーを顔面にかけてしまいましたが、その時はマーモンも正気に戻ったのかいつも通りになっていましたが。

「風」

「ッ…はい、どうしました?」

マーモンの声かけにハッとした風は考えることを中断し、冷静を装いながら微笑んだ。
すると、風の手に触れて手首を掴むと自分の頬に触れさせた。

「…僕のこと…たくさん、触って…?」

「ん"ッ…い、いんですか?
私に触れられるの、お嫌いでしょう?」

少し遠慮がちに頬を撫でると、もっとと言うように顔を押し付けてきてごろごろと喉が鳴っているのがわかった。

「今は、触られたい気分なのさ」

熱のこもった吐息を漏らしながら風の手に擦り寄る姿マーモン。 

か…わいいですし、私が今まで望んでいた光景…。
しかし、拭いきれない違和感があり素直に喜べない自分がいるのは確か。
いつもは皆無なのに私に触れてほしいようですし、それにこの艷やかさ…。










まるで、発情している猫かのよう…。









「…」

…まさか。

風はハッとしてマーモンを見つめた。
マーモンは未だに自分の手に顔を押し付けてすり寄っており、風の視線に気付いたのか顔を近付けてくる。

「ん」

ごろごろと喉を鳴らし、自分の頬を風の頬へと擦り寄らせた。

…これは、確定ですかね。

風は片目を閉じながらマーモンの頭に手を添えて優しく撫でながら小さく息を漏らす。
空いている片手で自分のスマホを手に取り操作をすると耳へと当てる。

「なにしてるの?」

「少し静かにお願いしますね?」

頬をくっつけたままマーモンが問いかけると風はマーモンの唇に指をふにっと軽く押し付けた。
スマホで数コール聞こえた後に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

『もしもし』

「急にお電話すいません、ヴェルデ」

『いや、大丈夫だ
珍しいな、私に電話をするとは…マーモン絡みか?』

「えぇ、貴方…とんでもないことをしてくれましたね」

『なんだ、どうかしたか?』

「どうもこうもありません」









「マーモン、発情期の症状が出てるんですよ」










『…のろけならば切るぞ』

「それならばどれだけよかったことか…」

風はため息をつきながら先程唇につけた自分の指を口に咥えようとしているマーモンを静止した。
マーモンは止められたことに不服そうな表情を浮かべて尻尾をたんたんッと床へと打ち付けだす。

『その様子だと本当のようだな』

「以前体を洗っていた時にも似たような症状が出ていたのですが、まさか発情期とは…」

『私もそこは考慮していなかった
しかし、そこまで猫に近しくなるほどのものを作り上げているとは…我ながら自分の才能が恐ろしい』

「言っている場合ですか?
これはどうすれば収まるのか教えていただきたいのですが…ッ…おっと」

いきなり顔の目の前にムスッと不満げな表情のマーモンが出てきて風は驚いてしまい、スマホが手から落ちてしまう。

「僕よりも、そっちが大事?」

「貴方のほうが大事に決まっていますよ
しかし、ヴェルデに聞かなければならない事が…」

「いつも僕を望んでいるんだからさ、そんなヴェルデとの電話より」

横に寝転んでいたマーモンだったが上体を起こすと風の腹部へと跨って座り込んだ。

『風、猫の発情期は無理に止めると逆にストレスになる
だから…』









「僕を、優先してよ」









『発散してやれるなら、発散した方がいい』









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