嫌味な奴に一泡を


「ほぉ、まさかここまで再現できているとは」

途中経過を伝える日。
ヴェルデの研究所にたどり着いたマーモンと風。
マーモンは椅子に座り、ヴェルデにジロジロと身体を見られながら大人しく座っている。
自分の研究の結果に少し驚きながらもヴェルデは満足そうな表情を浮かべていた。

「これは実におもしろいな...マーモン、少し触れてみてもいいか?」

「あぁ、でもなるべく優しく頼むよ」

「わかっている」

そっと猫耳へと触れて肌触りや形などを確認してみるヴェルデ。マーモンは触れられてくすぐったそうにピクリと身体を跳ねさせるもジッと我慢をする。

「…造形、触り心地共に本物に近しい
次は尻尾を見たいのだが、立ってくれないか?流石に見辛い
あとズボンを少し下げてくれると助かるのだが」

「別にそのくらいいいけど
その前に...」

マーモンは壁に寄りかかりこちらの様子を見ている風へ顔を向ける。

「なんでお前はずっとそんなに見てるんだよ」

「お守り役ですので」

にこりと微笑む風を見てため息をつくと、マーモンはカチャカチャとベルトを外してズボンを少し下げ、ヴェルデに背中を向けた。
目の前でゆらゆらと揺れる尻尾にそっと手を伸ばして刺激をしないように手に取る。

「ッ...」

「ふむ、これは素晴らしい
耳同様に完璧な再現ではなかろうか
すまないが、少し痛みを与えるぞ」

「え、痛みってい...あ!!」

ヴェルデの言葉にストップをかけようとするもぐっと尻尾を強く握られてビクッと身体を跳ねさせながら声をあげてしまう。痛みから逃れようとヴェルデから離れようとするも片腕を掴まれ逃げられなくなってしまった。

「動くんじゃない、分かりづらいだろう」

「あまり刺激するな、馬鹿!痛い...ッ...~~!!」

身体の力がだんだんと抜けてしまいマーモンはその場でへたりと床に座り込んでしまう。
ヴェルデは満足したのか資料になにやら書き始める。

「き、君ね...もうちょっと丁重に扱ってよ...」

「別によかろう、その分の報酬を支払っているんだからな
...ちなみに風、貴様なんて顔をしているんだ」

真顔で二人の様子を見つめているだけの風へと顔を向けるヴェルデ。

「...無になっていないと...嫉妬から貴方を殺してしまいそうで」

「貴様らの恋愛事情に私を巻き込むな」

「そこに僕の事も巻き込まないでほしいんだけど」

自分の衣服の乱れを整えながらマーモンは立ち上がりソファーへと座った。

「この3日間過ごしてみてどうだ?
身体能力的に上がったところは?」

「そうだね、メリットとしては暗闇の中での行動は今まで以上によくなったよ
暗闇の中でも目が冴えてるし
聴力も上がってるみたいで少しの音も逃さない
暗殺部隊としてこれは非常に助かってる」

「そうか、まぁそれは想定の範囲内といったところか」

「デメリットとしてはやっぱり睡眠時間が長いことかな…この前任務中にいきなり眠くなっちゃって木の上から落ちたし
でも瞬時に反応して着地は出来たからよかったよ」

「猫って高いところから落ちても瞬時に立ち直りますよね」

「三半規管が異常に優れているからそのせいだろうな」

「あと耳と尻尾の感度
少しなにか触れてもすぐに反応しちゃって」

「それはどうすることもできないだろう」

「それに、これが一番大事なんだけど…
水、怖くてシャワーもろくに浴びれやしない」

「…水…あぁ、なるほどな
睡眠については考慮していたがそっちは盲点だった」

「君ね…おかげでこっちは大変な目にあってるんだけど」

「その割には貴様から嫌な匂いはしていないが…」

「…それは…まぁ…色々と…」

ぶつぶつと呟くように小さな声のマーモンとにこにこと満面の笑みを浮かべる風を交互に見たヴェルデは"ふむ"となにやら察したように頷いた。

「とうとう恋仲にでもなったか、おめでとう」

「そんなわけないだろう、冗談はやめて
そもそも、今回ここに来るのだって君がこいつに頼んだからだろう?」

「当たり前だ、モルモットになにかがあった場合私の責任になってしまう
それに、実験結果を得られない事になったら目も当てられない」

「お前…ッはぁ…いや、いいや
君がそういう奴だっていうのは昔からわかっていたことだし
今回はもうこれで大丈夫かい?
大丈夫なら僕もう眠くなってきたんだけど」

「あぁ、別に構わん
こちらで一眠りしてから帰ってもいいのだが...」

なにを言っても通じなさそうなヴェルデにマーモンは深いため息をついた後、眠そうに目を擦りだす。
ヴェルデは提案をした後に風からの視線を感じてチラリと風に視線を移した。

「大丈夫ですよ、途中で眠ってしまった時は私が対処しますし」

「そうか、ならば大丈夫だな」

「え...僕少し寝ていきたい...
なんで僕の話聞かずに進めるの君達」

「いいではないですか、貴方がもし眠ってしまっても私がアジトまで届けますよ」

「嫌だ、それならヴェルデのところで少し寝て回復してから帰りたい
君の助けなんて借りてなるものか、それならまだヴェルデの方がましだ」

「おい、まだとはなんだ」

「なにを今さら
もう私と貴方は裸の付き合いをした仲だというのに」

「そういうわけだから、僕は寝るよ
一時間経ったら起こして」

風の言葉を無視しそう矢継ぎ早に言いながらマーモンはソファーに横たわり瞳を閉じる。
しばらくするとすやすやと寝息が聞こえてきて眠ってしまったのが確認できた。

「早いな...」

「ふふっ、猫のマーモンも可愛らしい...さて、ヴェルデ」

「なんだ」










「少し、伺いたい事があるのですが」

「…?」









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