嫌味な奴に一泡を


「言っておくけど、体洗うだけだからね?」

風は自分の服が濡れないように裸になるため服を脱いでいると、マーモンはバスタオルを肩にかけた状態で風に告げた。

「それは安心してください、重々承知をしています
なので、そんなに警戒をしないでくださいよ」

苦笑をしながら風は腰にタオルを巻くとマーモンを手招きしながら浴室へと入る。
マーモンは少し警戒をしているのか、そろりと浴室に足を一歩踏み入れた。
浴室の床に足が触れると、微かに濡れておりそれにさえ"ひっ"と声を漏らして片足を上げてしまう。

「これは…けっこう重症ですね」

「僕もここまでとは思わなくて…とんだところで弊害があるとは」

困ったように自分の足元をふるふると振るうマーモンを見て、風は少し考え込んだ後にマーモンへと近寄った。

「すいません」

「え、なにが…」

風は断りを入れるときょとんとしているマーモンを抱き抱え上げた。
マーモンは驚いたような表情をすると、床の水滴に尻尾が触れないようにとギュッと尻尾を抱き締めた。

「バスタブの中で洗ってしまいましょうか
その方が冷たくないでしょうしね」

「むむむ…」

お湯の入っていないバスタブの中へと入り、恐怖で体を震わせているマーモンを太ももの上へと乗せて背後から片手で抱き締めた。
空いている片方の手でシャワーに手を伸ばして湯の温度を確認しようと少し出してみる。

「ッ!」

「大丈夫ですよ、怖くありません」

出てくる音でさえ過敏に反応を示し、すぐさま逃げようとするマーモンに優しげな声色で言いながら抱きしめる力を強めると、少し抵抗を示しながらも逃げようするのをやめた。

「いいこですね、マーモン」

「ッ…おい、子ども扱いやめろよ」

「違いますよ、仔猫扱いです」

「ふぎゃッ!」

頭にいきなりお湯をかけられ、マーモンは声をあげると同時に猫耳と尻尾をピンッと立てた。

「や、やめッ」

「こらこら、暴れない暴れない」

「うッ、ぁ」

マーモンが暴れる度に風は落ち着かせるように声をかけ、一度お湯を止めるとシャンプーを手に取りそのままマーモンの頭を洗い始める。

「お耳は…あまり触らないほうがいいんでしたよね?」

「うん…耳と尻尾は触らないでほしい
こうしとけばやりやすいかい?」

耳に触れそうになると風は寸前で手を止めてマーモンに問いかける。
マーモンは両方の猫耳を手でぺたりと覆い隠し風へと顔を向けた。

「ん"ッ」  

マーモンの言動に悶絶をしながら風は頷くと、自分の煩悩をなんとか収めながら頭をわしゃわしゃと泡立てながら洗っていく。

これは刺激が強すぎますね…。
ただでさえ互いに裸で密着をした状態。
マーモンも水が怖いせいか心做しかいつも以上に私にくっついていますし。
…このようにドキドキしてしまっているのも私だけでしょうね…。










…マーモンに悟られないように気を持たねば…。









…な…にしてるんだ僕は…ッ!

マーモンは自分の尻尾をギュッと抱きしめながらチラリと背後にいる風に顔を向けた。
風はマーモンの頭を泡立てながら淡々と洗っている。

いくら水が怖くてシャワーを浴びれないからってよりにもよって風に頼むなんて…こいつが断らないことをいいことに利用するようなことを…。
この前体拭いてもらったりと風を使いすぎだよな…。
薬切れたらお礼の1つでも…いや…お礼…お礼…。
風の場合、なにが欲しいとか分からないからなぁ。

欲しいものと言えば…。

"マーモン、結婚しましょう、結婚!"

…。

「…いやいや、それは流石に…」

「?どうしました?」

自分の考えが口に出ていたのか風が不思議そうに問いかけてくると、マーモンは"なんでもない"と告げた。

流石に結婚するとかはないから。
僕はこいつが嫌いなわけだし。それは決して変わらない。

…でも…まぁ…最近は前よりかは嫌いではない、かな。
甘いものくれるし。

ぽふりと風に体を預けるように寄りかかると、一瞬風の動きが止まったような気がしたが、すぐに頭を洗い続けたからあまり気にしなくてもよさそうだ。

今は呪いが解けて余裕があるからなのか、そこまで嫌悪感とかは抱いてない。
むしろ、呪われる前なんでそんなに嫌っていたのか…と思う程。
今も説教されるのは嫌だけどさ。
まぁ、昔の僕にはお金しかなかったし、お金しか信じていなかったからなぁ…。

…でも今は…。

「泡、流しますね」

「え?」

物思いにふけていると風に声をかけられ頭からお湯がかけられる。

「ひッ!」

突然かけられマーモンは大きな声をあげながら風に慌てて首元にしがみついた。

「ちょ、マーモン
まだ流せていませんよ」

「い、いきなりかけないで!怖いから!
僕の返事くらい待っ」

バチッ。

困ったように笑いながら大人しくさせようと背中を撫でる風をバッと顔を上げながら指摘をすると、思ったよりもお互いの顔がすぐそばにあり、視線がぶつかった。
浴室の中にシャワーの音だけが静かに聞こえてくる。

「…マーモン」

「ッ…」

頬に手を伸ばされ触れられるとマーモンはピクッと体をはねさせてしまう。
風はジッとマーモンを見つめており、もう片方の手でグッと腰を引き寄せて先程よりも密着する体。

あ…この雰囲気はやばい…。

自分の鼓動が風に伝わりそうなほど高鳴っているのが分かる。
マーモンは"ごめ…ッ"と少し慌てながら風から逃れようと肩に手をおいて押すもびくともしない。
それどころか、腰に回された手に力が込められる。

なんだ、これ…す、素肌でくっついてるからなのかすごいどきどきして…頭くらくらするんだけど…なんでだ…。

「…風…」

自分でも驚く程甘えるような声色で風の名前を呼んでしまい、首に腕を回して密着するように抱きついた。










このままだと…僕…。










バシャッ!

「ッにゃ!」

いきなり顔にお湯をかけられマーモンは大きな声をあげた。

「す、すいませんマーモン!
加減を間違えてしまって…」

慌てて誤りながら"大丈夫ですか?"とマーモンの顔を風は心配そうに覗き込んだ。
マーモンは少しぼーっとしながら風を見つめた後に、ハッとした表情を浮かべる。

「ッ…ごめん…助かった…ありがと」

「…大丈夫そうですね
今度からはちゃんと気を付けますので」

マーモンの表情を見た風はほっと胸を撫で下ろし、マーモンは風へと背中を向けた。

「さて、他のところも綺麗にしていきましょうか」

「あ、あぁ…よろしく頼むよ」

意気込み風を他所にマーモンは頭を抱えだす。

あ…ぶなかった…。
風のおかげ(?)で大事にはならなかったけど、もしあのまま雰囲気に流されてたら僕は…。









「…あぁぁぁぁ」

「どうしました?」

「…いや…うん…なにもない…」









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