嫌味な奴に一泡を
「...一ヶ月ぶり位に来たな」
マーモンはとある建物の前で立ち止まると地図と現在地を見比べてぽつりと呟いた。
場所が合っているのを確認すると、建物の扉を開けて中へと入っていくとすぐに階段があり下っていく。
下っていった先には再び扉。マーモンは扉に手をかけてゆっくりと開けると、廊下が続いており慣れたようにマーモンは廊下を歩く。
入口から入って何番目かの扉。その前に立ち止まるとマーモンはガチャリと扉を開けた。
「やぁ、ヴェルデ」
扉を開けると実験道具等が乱雑に置かれており、椅子に座りコーヒーを飲んで一息ついているヴェルデにマーモンは声をかけた。
「おい、ノックぐらいしろ」
マーモンの姿を見たヴェルデはマグカップをデスクに置いた。
「どうせ監視カメラで分かってただろう?
なら声掛けは必要ないかなと」
「だから貴様は少し礼儀を弁えろと」
「今日はなんの治験なの?」
ヴェルデの事を無視してソファーへと腰掛け今日の用件を聞くマーモンに、これ以上は無駄だと判断したヴェルデは立ち上がり手に何枚かの資料と一粒のカプセルを持ちながら隣へと座った。
「…この薬の検証を頼む」
ヴェルデに差し出されたカプセルを受け取ると、マーモンは照明のライトに照らしだす。
「身体に害は?」
「あるわけない、私の実験なのだから」
「ふぅん、ちなみにヴァリアーの任務もあるから副作用がひどいものじゃないならいいんだけど」
「それは保証はできん、しかし当たりを引ければ貴様にとってはいい結果になるだろう」
「...曖昧だな...いいよ、やる」
「ならこれにサインを」
自分からの問いかけの返答に少し引っ掛かるも受け取ったカプセルを口に入れようとした。
すると、ヴェルデは手に持っていた資料をデスクに置き近くにあったペンを添える。
マーモンはカプセルを飲む手を一度止め、ペンを手に取るとろくに内容を読まずに自分の名前をサインした。
「毎回毎回律儀だね
別にこんなもの書く必要ないと思うけど」
「念の為だ
それに、これにサインをしなければなにかしらがあった場合の保障は出せなくなるぞ」
「ムム、それは大変」
サインを終えたことを確認すると、ヴェルデは水の入ったコップを差し出し、マーモンは先程受け取ったカプセルを口の中へと入れ受け取って水を飲み込んだ。
「症状が出るのは早ければすぐ、遅ければそうだな...明日朝、といったところだろうか
報告は1週間後、薬が切れる前の状態も見ておきたいから3日後にまた来てくれ
私もその状態を見たいのでな」
「わかった、とりあえず3日後ね」
マーモンは立ち上がり部屋の扉へと向かう。
「なんだ、もう行くのか」
「ここにいたって仕方がないだろう?
それに、僕も暇じゃないしね」
「あぁ、風が待っているのか」
「…」
ヴェルデの口から風の名前が出てくると、マーモンは眉間に皺を寄せながら振り向いた。
「風の名前出すのやめろよ」
「なんだ、しばらくこちらに顔を出さなかったから諦めてそういう関係になったのかと思ったんだが…違うのか?」
「違うよ、ちょっと任務でへまして怪我したからこっちに来れなかっただけさ
なるべく休みの日は幻術も使わないように制限してね」
「怪我か、珍しいな」
「最近は予定を詰め込みすぎちゃってたから
スクアーロにも怒られちゃったしね
でもまぁ、今日は治験だって聞いたから久々に小遣い稼ぎに来たの」
「そういう事だったか、ちなみに風にこの件は伝えてあるのか?」
「あのね、逆になんで伝える必要があるのさ
あいつに伝える義務なんてないよ」
「前回のように私に被害があっても困るんだが?」
「知らないよ、そんなの
症状が出たらまた連絡するから」
「そうか...マーモン、1つ聞きたいことがある」
「...?聞きたいこと?」
マーモンはヴェルデへと身体を向けると首を傾げながら見つめる。ヴェルデはマーモンの顔を見つめながら怪しげな笑みを浮かべた。
「貴様は猫派、犬派...どちらかな?」
「...蛙派」
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