最近俺の教育係がおかしい件


「では、失礼しますね」

「いッ」

消毒液を染み込ませたコットンをピンセットで摘みトントンと軽くつけて風は切り傷を消毒していく。
マーモンは消毒液が染みたのか表情を微かに歪ませた。

「しかし、派手にやられましたねぇ
一体何があったのかはわかりませんが、もしかして喧嘩ですか?」

「いや、喧嘩はしてないよ
喧嘩だったらお互いボロボロになっているし」

「確かに、貴方だけがこんなにボロボロでしたよね…まさか」

ふと別れる前のベルの姿を思い出し呟くように言った後、風はハッとした表情を浮かべた。

「ベルフェゴールに逆らえずにあんな…」

「君はベルをなんだと思っているんだい?
まぁ、たまに殺し屋殺しとかしてるけど」

「ではなぜあのようなことを?」

なおさら2人がやっていたことが理解できずに風は不思議そうに首を傾げた。
マーモンは言葉につまり風から少し視線を逸らした。

「…笑わない?」

「え、まぁ…理由によりけりですが
そんなにおかしな理由なんですか?」

「むむ…え…っと………った…」

「はい?」

恥ずかしそうにもごもごと口ごもった後に、俯きながらボソボソと小さな声で呟き出す。
うまく言葉を聞き取れなかった風はマーモンの顔にそっと顔を寄せる。










「…太ったから…少し、運動しようと…思って」










「…」

マーモンの告白に風はきょとんとした表情を浮かべており、マーモンは恥ずかしさからか頬を赤らめながら風を見た。

「…君が甘いものを毎日のように食べさせるから太ったんだよ
だから、少し痩せるためにベルに付き合ってもらってたの
まさか、こんなに怪我するとは思わなかったけど」

「…あの」

「ム、なんだよ…笑いたければ笑えよ」

「いえ、そうではなく」

風はマーモンの頭から爪先までじっくりと眺めた。










「えっと、どこが太ったのでしょうか?」







 

風からしてみればいつめの体型と変わらない。
何度見てもそう思ったのか風はマーモンに疑問をぶつけた。

「貴方の場合、むしろ標準よりも痩せているのですから太ったところであまり気にしなくてもいいと思いますよ?」

「ムム、でもベルが"少し太った?"って
二の腕もそうだけど、ほっぺとか…」

「二の腕…少し触ってみても?」

「ん」

マーモンの二の腕に視線を向け手を伸ばすとマーモンも自分から二の腕を差し出してくる。
"失礼しますね"と一言断りを入れてから風は優しく触れてみる。
軽く揉んでみると柔らかく、皮膚と脂肪のみで形成させれており筋肉は必要最低限位しかないのがわかる。

「…これは」

もみ心地の良さにふにふにともみ続けていると、マーモンが少しくすぐったそうに腕を動かした。

「ねぇ、くすぐったいんだけど」

「…無限に触れそうです」

「それ、ベルにも言われた
ほっぺもむにむにするって」

「そうなんですか?ならそちらも触らせてください」

「ムム…」

二の腕から手を離して頬に触れようとすると、マーモンはスッと瞳を閉じて触られるのを待った。
そこで風はハッとして伸ばしていた手をピタリと止める。

…こ、これは…キス待ちの顔では…?!
まつ毛長くて可愛らしいお顔ですねぇ…いつも可愛らしいですが。
心なしか頬が赤らんでいるのは少し恥ずかしいのでしょうか?
そんな恥ずかしがるマーモンも素敵です、というか全てが尊い。

「…ねぇ、触るなら早く触っ…て…」

いつまでも触れられることが無いことに急かすように言いながらうっすらとマーモンが瞳を開ける。
すると、至近距離で風に顔を見られていることに気づき2人の視線がバチッと合い、マーモンの動きが止まった。

ち…か…ッ。

「…マーモン」

「ッ!」

名前を呼ばれたマーモンはハッとして勢いよくバッと顔を背けてしまう。

あ、あまりにも近すぎてびっくりした…。

「…驚かせてしまいましたかね」

マーモンの反応におかしそうに口元を緩ませながら風は止めていた手を頬へと伸ばして優しく触れる。
二の腕までとは言わないが、やはり柔らかい。

「あんまり見ないでよ、顔、見られ慣れてないんだから」

大人しく頬を触れられているマーモンは少し困ったように言う。

「それならばたくさん見せてください?
そうしたら慣れるでしょう?」

「…それはそれで嫌だよ
もういい?満足した?」

触れ続ける風の手から避けるように顔を動かすと、"えぇ、もういいですよ"と風はそのまま手を下ろす。

「別に太ってるということはないので安心してください」

「ムムム…でも」

「それならば、実際に太ったのかどうか体重を測ってみては如何です?体重計はありますか?」

「あるよ、洗面所にね」

「ならば測ってみましょうか
歩けます?」

「そこまで貧弱ではないから安心しなよ」

納得のいかないマーモンを風は誘導して2人は洗面所へと向かう。
洗面台の下に置かれた体重計を発見すると、風はマーモンを促し、マーモンは大人しく体重計の上へと乗った。

ピピッ。

「測定できましたね、どれどれ…」

測定終了の大人が鳴り、確かめようと風は表示された値を見て固まった。


「ムム、やっぱり太った?」

「…いえ…マーモン、貴方…」










「逆に痩せているではないですか…」










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