最近俺の教育係がおかしい件
「ふーむ…何処へ行きましたかね」
アジト内の廊下を歩きながら風は周りをキョロキョロと見渡した。
マーモンの匂いを辿ってここまで来ましたが…恐らくここ1階であることは間違いないはず。
やたらと建物が大きいですし、なにより部屋数が多い。
無闇矢鱈に部屋に突撃したら見つかってしまいますし、どうしたものか…。
考えながら曲がり角へと差し掛かる。
すると、見覚えのある銀髪の長い髪が視界に入った。
「あ"?」
「おや、これはこれは」
スクアーロは風の姿を見ると反射的に剣を振り上げ、そのまま風の頭目掛けて振り下ろす。
風はそれをタンッと軽やかな身のこなしで後ろへとジャンプをして避け、そのまま地面へと着地をした。
「う"ぉぉい、お前確か…」
「お久しぶりです、スクアーロ
代理戦以来、ですかね」
「お前、何処から入りやがったぁ
そういう報告は届いてねぇぞ」
ギロリと鋭い視線を風へと向けるスクアーロとは対照的に、風は爽やかな笑顔をスクアーロに向け、自分の唇に人差し指を当てた。
「それは少し言えません、企業秘密というやつです」
「てめぇ」
「安心してください
本日はマーモンに今後のアルコバレーノについてお話をしに来たのですよ
リボーンからの伝言です」
「…」
風の言葉にしばらく黙り込んでいたスクアーロだったが、風からの敵意が感じられないことから小さく舌打ちをしシュッと剣を一払いした。
「マーモンならベルと一緒に訓練場だぁ
この廊下を真っ直ぐ行けぇ」
「ありがとうございます、では」
「待てぇ」
ぺこりと頭を下げお辞儀をし、そのままスクアーロの脇を通ろうとするとスッと剣で進路を塞がれてしまい立ち止まる。
「なんでしょう?」
「お前、ちょくちょくマーモンの部屋に侵入してんだろ」
「おや、バレていましたか」
「恐らく俺とボスさんしか気付いていねぇがな」
「バレてしまっているのならば、なぜ私のことを追い出さないのです?
貴方方からすれば私はマーモンの友人だろうが恋人だろうが夫だろうが、不法侵入者に変わりないでしょう?」
「なんだ、そのやたら多い選択肢は」
チラリとスクアーロを横目に見ていると、進路を妨げていた剣が降ろされる。
「お前がマーモンになにしようとしてるかは知らねぇが、お前の今の態度と普段の様子から察するに害を与えてる感じはしねぇからな
どうこうする理由がねぇ」
「それはぬるいのではないですか?」
「なにが言いてぇ」
「仮にもここは誰もが恐れ慄くボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアー
それなのに私のような者を敵意も害もないからと言って侵入を見逃すとは」
「…別にどうって事はねぇ」
互いの視線がぶつかり合うと、スクアーロは小さく息を漏らしながら視線をそらし壁へと寄りかかって腕を組んだ。
「本当ならお前が現れた2ヶ月前の時にすぐに追い出そうとしていた
あん時、うちの門番をやったのはお前だろ」
「えぇ、本来ならば話し合いで解決したかったのですが
その時から気付いていましたか」
「ベルから報告があったからなぁ
その後もほぼ毎日のように侵入しやがってぇ
マーモンの奴、頭抱えて俺に相談してきたからなぁ?
"絶対に侵入できないセキュリティってない?"っ」
「そこまで考えていたのですね…」
「…まぁ、お前のことをあえて見逃してる理由を端的に話すと、だ」
スクアーロはふと瞳を閉じる。
「マーモンの野郎がお前が来て以来、少し変わってきてるんだよ」
「…マーモンが、ですか?」
風は驚いたように瞳を丸くし、スクアーロを見つめた。
「あいつ、赤ん坊の頃からここにいたが下っ端はともかく俺等幹部ともある程度一線を引いてやがったんだよ
呪いを解くのに躍起になっていたのもあるが、他人と関わるのを極力避けていた
まぁ、あいつの場合元々金にしか執着してねぇからそれもあるのかも知れねぇが
そんなあいつが、呪いを解いて元の姿に戻ってしばらくは赤ん坊の時と同様に金金しか言わなかった
ニューヴァリアーリングに全財産使い込んでたしなぁ、無一文はあいつにとっちゃ地獄だったんだろう
だがな、お前が来て以来…少しずつだが前よりも俺等と距離を縮めようとしてきてんだ
金にしか興味がなかった奴がだぜ?
もしかしたら他にも理由があるのかもしれねぇが、時期からしてやっぱりお前絡みなんだろうと思って見逃してるってわけだぁ」
スクアーロは勢いをつけて壁から離れ、風を一瞥すると背中を向けた。
「お前がアジト内で変な気起こす時は容赦なくたたっ斬るから覚悟しておけぇ」
「…ということは」
「あ"?」
「ヴァリアーのボスであるザンザスの右腕の貴方に許可を得た、ということは実質これは結婚の承諾をしてもらえたということですね」
「…なに言ってんだ、お前ぇ…」
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