僕を好きな君と君が嫌いな僕


「...君、まだそんなこと言ってるのか」

マーモンは風の発言に懐かしく感じ、目をスゥッと細めて風を見つめる。

「昔のこと過ぎて忘れていたよ」

「忘れないでください、私は真剣なんですよ?」

風は唇を尖らせながら言い、顔を近付けてくる。

「君が真剣だろうとなんだろうと関係ないさ
君と同様に、僕の思いは変わらないしね」

近付いてくる風の動きを制すようにスッと手のひらを顔の前に出した。
その動きに合わせるかのように風は顔を近付けるのをやめ、熱のこもったような眼差しを向けてくる。










過去に何度も向けられたその眼差し。
...けれど。










「バイパー」

「...君は」

鬱陶しそうに肩を押すと案外すんなり離れてくれた。
そして少し離れた風を腕を組ながら見据える。

「君は何度も何度も僕の事をバイパーって呼ぶね」

「...当たり前でしょう?バイパーには代わりないんですから」

マーモンの言葉の意味が分かっていないのか不思議そうに風は言う。










「もうこの世に、バイパーなんて奴は存在しない」










そうだ、僕は過去に...あの忌まわしき呪いをかけられその事に絶望をしバイパー、昔の自分を捨てた。

「あの時から、あの呪いの日からバイパーは死んだんだよ...風
この言葉の意味が分かるかい?」

マーモンの話を黙って聞いている風を嘲笑するように言葉を続ける。

「君の想い人はもう、この世にはいないと言うわけさ
君が昔、しつこいくらい愛を伝えていたバイパーはね」

「...」

眉ひとつ動かさずに風は聞き続けている。

さすがにここまで言えば...。


「そういうことだから、過去の想い人の事はさっさと忘れて僕の部屋から出ていってくれるかい?
君の恋愛事情には興味がないから
それに、恋愛相談ならもっと適任がいるんだからよーく考えることだね
そうだなぁ、例えばコロネロとかがいいんじゃないかな」

くるりと背中を向けて部屋の扉へと手をかける。

全く、よくもまぁ僕があいつらから姿を消してからのうん十年の間飽きずに僕の事を好きでいられるな。
見た目はいいんだから選り取り緑だろうに。

「...マーモン」

「!」

再び名前が呼ばれる。
しかし、昔の名前ではなく今の名前で。
マーモンは恐る恐る顔を向けた。
すると、いつの間にか風がマーモンの背後に立っており顔を上げるとバチッと視線が合う。
視線が合った風はいつものように優しく微笑み、マーモンの両手をそっと包み込む。









「マーモン、一目惚れしました
私とお付き合いしてください」










6/10ページ
スキ