最近俺の教育係がおかしい件


「…」

なぁに言ってんだ、こいつ。

ベルはジッと見上げてくるマーモンを見下ろしながら発せられた言葉に疑問を抱いた。

部屋入っていないと思ったらここで自分の腕見てなんかやってるし、そんで俺の二の腕見せろって…。

「…別にいいけど」

ベルは渋々腕まくりをし"ん"とマーモンに腕を見せるとソッと触りだしてくる。

「あ、君筋肉あるんだ」

「そりゃある程度はあるわ
お前が筋肉無さ過ぎなの
筋肉って言ったらオカマがすごいんじゃね?
あいつムキムキだし」

「うむむ…そういうんじゃなくて…ルッスーリアはさらけ出してるからなんか違うんだよ」

「なにその無駄なこだわり
お前、そんなに筋肉好きなわけ?」

"ありがと"と触るのをやめるマーモンにまくった袖を直しながら問いかけると、マーモンは"そうじゃないんだけど"と言葉を濁す。

「…君、僕に用事があって来たんじゃないの?」

話の話題を変え、ベルが部屋へと来た理由を聞いてくるマーモンにベルは"あー"と思い出したように声をあげる。

「お前、今日休みだろ?」

「ム、そうだけど」

「最近お前、怪我したりどっかにふらっと行ったりしてて相手してくんなかったから今日王子の相手しろよ」

「今日…今日ね」

部屋へと2人で戻りながらベルははにかみながら言うと、マーモンは壁にかけられたカレンダーを一瞥する。

「なに、今日もなんかあるわけ?」

「…いや、今日は大丈夫かな」

「?」

「いいよ、僕も最近君のこと構ってあげられなかったしね
今日は特別に構ってあげる」

ソファーに腰掛け、足を組みながら何故か上から目線で言われベルはイラッとしながらも隣へと腰掛けた。

「お前が俺の事構うんじゃなくて、王子が構ってやるんだから勘違いすんな」

「はいはい、わかったよ」

こいつ…。

明らかに子供扱いしている態度に腹が立つ。
マーモンはテーブルに置いてあった本へと手を伸ばして読み始めた。

「なぁ」

「なに?」

「お前、この前の休みん時どこ行ってたわけ?」

ベルの言葉にページを捲ろうとしていたマーモンの手がピクリと反応を示した。

「いつも休みの日は部屋ん中に閉じこもってるのにいないし、どっか泊まったのか知らねぇけど帰ってこなかったしさ」

「…」

「スクアーロも行き先聞いてなかったみたいだし?
どこ行ってたんかなーって」

「…」

「おい、聞いて」

淡々と問いかけるもマーモンからの返答がなく、少し苛つきながら顔を向けるとぷるぷると震えながら読んでいた本を顔へと押し付けている。

「は、おいマーモ」

滅多に見ない反応に思わず驚きながら声を掛けるもマーモンはその状態で何度か深呼吸を繰り返す。
そして、しばらくすると落ち着いたのか何事も無かったかのように本をスッと顔から離すといつもの表情が露わになる。

「…なに?」

「…いや、なにじゃねぇよ
お前さっきの反応なに?」

「さっきの反応って?」

「…誤魔化せるわけねぇじゃん!
なんだよさっきの!見たことないんだけど!」

「むぎゃッ!」

ベルはガッとマーモンの肩を掴むとぶんぶんと揺すり始めた。
それに合わせてマーモンの首ががくがくと動かされ"ちょ、まッ"と声にならない声が漏れ出る。

「お前吐けよ、この前なにがあったか吐…」










ピリッ。










「ッ!」

ベルは窓の外からの殺気を感じ取り、バッと勢いよく振り向くと同時にナイフをシュッと1本投げる。
しかし、そのナイフは窓にカッと当たるとカランカランッと金属音を立てながら床へと落ちた。

「…ベル?」

マーモンは殺気に気付かなかったのか頭を押さえながらベルを見つめてくる。

「…なんもねぇよ」 

しばらくジッと窓を見つめていたが立ち上がり、窓へと向かう。
窓越しに外を見るも特に怪しい気配はない。

「…」

気の所為…な、わけねぇな。
明らかに俺に向けられた殺意感じたし。
でもマーモンが気付かないってことあるか?

チラリと窓に映ったマーモンの様子を探ると、マーモンは先程までの衝撃でまだ頭を押さえている。

「んー…」

「ねぇ、さっきからどうしたのさ
なにか外にいるの?」

「…いんや、なーんも」

もういないみたいだし、別にいいか。
またなにかしらあった時に報告で。

床に落ちたナイフを拾い上げ、再度窓を見た後にベルはマーモンのいるソファーへと戻っていった。










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