不明瞭な気持ちで
「君、よく眠っていたね」
先程まで自分達がいた部屋から出ながらマーモンは風へと声をかける。
部屋の扉をガチャッと閉め、着替えなどが入った鞄を肩へと掛け直した風は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「…すいません、貴方とのデートが楽しみで夜遅くまで起きていたもので」
「まるで子どものようだね
まさか、君が8時頃まで眠っているとは…」
あの後、二度寝をしたマーモンは7時頃まで寝ており風はそのさらに1時間遅い8時までマーモンが起こすまで眠り続けていた。
「本当ならば貴方よりも先に起きて寝顔を眺める予定だったのに…不覚です」
「そんな計画立てないでくれる?」
「しかし…貴方と共に眠っていたからでしょうか
いつも一人で眠る時よりもぐっすりと眠れたような…あと」
廊下を歩いてエレベーターの前へと辿り着き、ボタンを押して到着を待つ最中、風はチラリとマーモンへと視線を向けた。
視線を感じたマーモンは"なんだよ"と見上げる。
「…すごく、幸せでした」
「…」
言葉同様に表情からも幸せなのが伺えてマーモンは少し恥ずかしそうに顔を逸らした。
チンッと音が鳴り響き、エレベーターの扉が開かれ2人は乗り込むとボタンを押して到着を待った。
「…幸せ、とかそういうのはわからないけど」
「ん?」
少しの間沈黙があり、それを破るようにマーモンは口を開いた。
「…まぁ…今回のデートは悪くはなかったよ」
「!」
「だけど、今回だけだから
今回は君への借りを返すために行っただけであって…ッムム!」
自分の髪をくるくると指に巻きつけながらマーモンが告げると、ガバッと勢いよく風は抱き着いた。
「ムムムッ、ちょっと」
「ふふ、今度は何処に行きましょうかね
マーモンはどこに行きたいですか?」
「だから、今回だけだって!
君、僕が嫌いなこと忘れてるわけじゃないだろうな」
「昨日言いましたが、遊園地もいいですね
夏になったら海なんてのもまた…水着姿の貴方もさぞ愛らしいのでしょう」
「話を聞け…って、あぁもう
もう着くから早く離せよ」
デレデレとだらしない表情を浮かべながら頭に頰ずりをする風をうざったく思い離れさせようと肩を押す。
その最中エレベーター内に表示される階数がだんだんと1階へと近づいてくるのが見えた。
「おや…もう」
マーモンに言われ名残惜しそうに風はゆっくりと体を離す。
それと同時に再びチンッと音が鳴り響いた。
「マーモン」
「ム、今度なに」
扉が開くのを待っていると風に名前を呼ばれて顔を向ける。
すると、自分の額にチュッと軽くキスを落とされた。
「ッ!」
「…さて、行きましょうか」
顔が離されるとマーモンはバッと自分の額を手で覆い隠す。
その様子に風は満足そうに微笑みながらマーモンの手を取り、開いた扉から出ていく。
「ッき…み…ほんっと、嫌い!」
「ふふ、照れなくてもいいのですよ?」
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