不明瞭な気持ちで


マーモンは優しげで、しかし熱のこもった瞳で見つめる風の瞳に吸い込まれそうになり、ハッとして視線をそらした。

やばい。この雰囲気は…。
こいつが言葉を発する度に頭に響いてくるし、なにより雰囲気に呑まれてなのか頭がクラクラとしてきた…。
それに…手つきが厭らしくて…ちょっと…。

風の体から少し離れるようにマーモンは腰を引く。

くっそ、場を支配するのが術士の役目なのに、逆に支配されてどうするんだ…。
でもこいつに力で太刀打ちなんて出来ない。










このままじゃ…本当に襲われる…ッ!











「…風」

少し考え込んだマーモンは風の名前を呼び、ソッと頭に手を乗せて優しく撫で始める。
それに驚いたのか、風は瞳を丸くしながらマーモンを見た。











「…いい子だから…触るの、やめて…?」










色々考えたけど、風の場合抵抗しても無駄だ。
素直に言ったほうが効果はあるだろう。
あと、なんだか褒めてほしそうだから褒めたけど…これでいいの、か?
他人褒めたことなんてそうそうないから正解かどうかわからないけど…。

脳内で考えながら風の頭をぎこちなく撫で続け様子を伺った。
瞳を丸くした状態でしばらくマーモンを見ていた風だったが、マーモンを抱き締める力を強め腰を引き寄せた。

「ッお、おい」

腰を引き寄せられビクッと体を跳ねさせ抵抗しようとするも、それ以外のアクションは特になく首筋に顔を埋めた状態で口を開いた。

「…抱き締めるのは、許してくれますか?
触るのは…我慢しますので」

「ムムム…」

"抱きしめるのも触ってることになるのでは?"という疑問が喉元まで出てくるもマーモンはグッと堪える。

「…はぁ…いいよ、君がそれで満足してくれるのならね」

小さくため息をつきながら諦めたようにマーモンが言うと、風は"ありがとうございます"と小さく呟いた。

全く…僕に抱き着いてなにが楽しいんだか…。

マーモンは段々と風の体温が心地良くなって眠気が襲ってきたのか"ふぁ"と小さく欠伸をした。

布団、かけてないのにこいつ温かいからちょうどいいな…今日動き回ったから…疲れて…眠…く…。










「…」

…やってしまいました…。

風はマーモンの首筋に顔を埋めたまま、己の行動を振り返る。

何もしない、と自ら言ったのにこの様とはなんとも情けない…。
下手すればこのままマーモンを…。

"いい子だから…触るの、やめて…?"

…マーモンがはっきりと言ってくれてなんとか思い止められました。
いや、これはこれでクるものがありましたが。
このままでは合わせる顔がありません。
マーモンはこんな私を、軽蔑しているでしょうか…。

ふとそう思っていると先程まで自分を撫でていた手の動きが止まっており、"すーッ…"と小さく寝息が聞こえているのに気付いた。

「…マーモン?」

顔をそっと覗き込んでみると、マーモンの瞳が閉じられており、一定のリズムで呼吸が繰り返されている。

…寝て…る?

自分が動いても反応を見せない様子に寝ていることを確信した風は、先程まで考えていたことが杞憂だったと分かり思わず苦笑をしてしまう。

まさか眠ってしまうとは…まぁ、普段そんなに体を動かさないようですし仕方ありませんか。
しかし、ここまで無防備に寝られると思っていなかったので正直意外ですね。
そこまで私の事を信頼してくれているのでしょうか。

柔らかそうなマーモンの頬を指で突くと"むむ"と小さく声を漏らして眉間にシワが寄る。
その姿が愛らしく、愛おしく感じ頬が緩んでしまう。
風はマーモンの額に顔を近づけ、チュッと軽く口付けを落とした。










「おやすみなさい…マーモン」










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