僕を好きな君と君が嫌いな僕


「はい」

マーモンはソファーに座る風の前のテーブルに紅茶の入ったティーカップを置いた。
"ありがとうございます"と礼を言い、ティーカップを持って風は紅茶を一口飲む。

...なんでこいつがここに。

その姿をジッと見つめながらマーモンは椅子へと腰を下ろす。

「そんなに警戒しないでください」

視線に気づいたのか口元に笑みを浮かながら風はティーカップをテーブルに置いた。

「呪いが解かれた日以来、ですか」

「まぁ、そうだね」

「バイパーってば、呪いが解かれて元の姿に戻った途端、すぐにいなくなってしまってましたよね」

「そりゃ、呪いが解かれれば君達と絡む理由はないし
それに、僕はそんなにゆっくりとしていられないのさ」

「おや、元に戻ったのならなおさら」

「全財産無くなったからその分取り返さないといけないんだよ」

「...あぁ、なるほど」

少し考え込んだ後に僕の言葉の意味がわかったのか納得したように頷く。

「貴方が他人のためにお金を使うとは思いませんでしたよ」

「他人のため?フンッ、違うよ」

風の発言に思わず鼻で笑ってしまう。

「僕がこの姿に戻るための必要経費だったにすぎない」

「そのわりに、貴方はここの場所を気に入っているようですね」

「...なにが言いたいのさ」

「いえ、別に?
ただ、高額な必要経費だな、と思いましてね」

「...チッ」

こちらを見透かしているような眼差しが気に入らなくて舌打ちをする。

「...それで、そろそろ用件教えてくれないかい?
こんな早朝から来て...なにか急用かい?」

自分用にと作っておいたレモネードのグラスを手に持ち、口元へと運ぶ。

「まさか僕とただ世間話をしに来た訳じゃないよね?」

口の中にレモネードの甘さが広がり、眠くなっていた目が少しだけだけど覚めたような気がする。

「えぇ、その通りです」

ピタッ。

平然と答える風の言葉に動きが止まる。

「...はい?」

「貴方とお話がしたくて来たんです」

「アルコバレーノの集まりがあるわけではなく?」

「まぁ、定期的に集まるという事には確かになっていますが違います」

「ならなにしに来たのさ」

「え?貴方とお話がしたいから」

「...」

理解ができない。

サラリと恥ずかしげもなく言う様子に理解が出来なくて頭を抱えてしまう。

僕と話したいってなんだよ...元々こいつの考えていることは読めないけど、今日は何時にもなく読めない。
てか、話したいってだけでこんな早朝に来るものなのか?
このヴァリアーのアジトに...。

そこでマーモンはふと疑問が思い浮かぶ。

「君、そもそもここにどうやって入ったの?門番がいたはずだよね」

「えぇ、いましたよ?」

「いましたよって...不審な人物は入れないようにと命じられてるんだけど」

「不審とは失礼ですね、まぁ、確かに入ることを拒まれましたが」

「ならどうやって」

「少し眠ってもらってます」

「...」

だからか、なんか外から騒ぎ声が聞こえているのは。

どうやら、風が眠らさせた門番に気付いた部下達が"侵入者がアジトの中に!"や"至急探しだせ!"と荒々しい声を上げている。

「私が言うのもなんですが、もう少し門番は選んだ方がいいですよ?」

「余計なお世話だよ...全く、どうしてくれるのさ
僕の事を巻き込むのはやめてくれないかい?
この状況見られたらどうみても僕が怒られるじゃないか」

「...?なぜ怒られるのですか?」

ため息混じりに告げると風は現状を理解していないのか、はたまた分かっていながらとぼけているのか...。

「...とにかく、お喋りしに来ただけならもう帰って
僕任務帰りで疲れてるし、君の気紛れに付き合ってられない
今なら他の奴等には僕が誤魔化しとくから」

疲れてと呆れから漏れでる大きなため息。
マーモンは立ち上がりながら告げると部屋の窓へと向かって歩く。

どうせ風の事だから窓から追い出してもばれることはないだろう。

「気紛れとは聞き捨てなりませんね」

背後から風の声が聞こえて振り向くと、トンッと壁へと押しやられ口元に笑みを浮かばせながら見下ろされる。

「おい、なんだよ」

「私は今も昔も、貴方に対して気紛れで接した事はありません」

この状態に不服そうな眼差しを向けると、自分とは正反対に真剣な眼差しを向けていることに気付く。

そして、僕ははっとする。









...あぁ、思い出した。
こいつは...。









「バイパー、私は貴方が好きなんですよ?」










こいつは、昔僕に好意を持っていたんだ。











5/10ページ
スキ