不明瞭な気持ちで
「そんなに警戒しなくても、もう何もしませんよ?」
部屋へと戻ったマーモンはソファーに体育座りをしながら警戒をしていると、後からついてきた風が困ったように笑いながら声をかけた。
「来ないでよ、また勃起されたらもうどう君を見ればいいのかわからないし」
「…」
「なんで黙るのさ、もしかしてもう」
「違いますよ、そういうわけではなくてですね」
自分の言葉に黙り込む様子を見て若干引き気味になりソファーの背凭れへと体を寄せると直ぐ様風から否定の言葉が出てくる。
「ならなに?」
「貴方の口から"勃起"という言葉が出てくるなんて想像出来なかったので…少し興奮しています」
「僕今からでも帰ろうかな」
「こらこら、お待ちなさい」
サァァと霧を醸し出すと風がガシッと片腕を掴んできてマーモンは霧を出すのをやめた。
「なんで掴めるんだよ」
「私には効きませんし、それに貴方に触れたいという気持ちが勝っているからです」
「そんなんで僕の幻術が負けるとかあり得ないから」
「私の想いがそれ程までにすごいということです
貴方も本日のデートで再認識したはずですよね?」
「ムム…」
確かに、風の言うとおりだ。
今日の水族館とこのホテルに来てからの風の行動…。
「私の事を意識してくれたようですし、これはもう結婚ですね」
「だから、そういう好意的な意味じゃないって言っただろう?
というか、少しでも意識してくれただけでいいってさっき言ってたじゃないか
君は自分のいいようにしか捉えないんだから…」
「ならば、あとどのような事をしたら意識、してくれますか?」
「え、それは…わからないけど…
そもそも、僕が君に好意を持つこと自体が断じてないよ」
「…」
隣へと腰掛け、掴んでいた腕を離し問いかける風の言葉にマーモンはフイッと顔をそらしながら言う。
すると、風から返事が返ってこない。
…なんだ?いきなり静かに…。
「…おい、なにか言っ…」
顔を少し向けるといきなり視界がぐらりと揺れ、背中に柔らかいものが当てられる。
目の前には風の顔があり、その奥には天井。
その状況からマーモンは風に押し倒されたことを察した。
「…ねぇ、何もしないって言ったじゃないか」
風を見上げながら問いかけるも返答はなく、風はマーモンを真剣な表情でジッと見下ろしたまま。
なんだ?別に怒っているわけではなさそうなんだけど…。
本当、こいつはなにを考えているんだか。
「ねぇ、風……ッ!」
名前を呼ぶと風の片手が自分の頬に添えられ、ゆっくりと顔が近付いてくるのに驚き声を失う。
「え、ちょ、ち、近…ッ!」
あまりの近さに動揺し顔に熱が集まり、パクパクと口を金魚の様に開閉させる。
少しずつ、ほんの少しずつお互いの唇の距離が縮まっていく。
「まッ…!」
これじゃ、風と…ッ!
マーモンは思わずギュッと瞳を閉じた。
すると、自分の額の方に柔らかなものが当たる感触。
恐る恐る瞳を開けてみると、風がいつものように微笑んでいた。
「…貴方って人は…入浴時もそうでしたが、その様な反応では期待、してしまいますよ?」
「き、たい…って」
「拒否したいのであればもっと行動で示していただかないと
私を突き飛ばしたりね」
「ッ…力では君に勝てないのなんて、さっきのでわかりきってるさ」
「ならば、なぜ逃げないのですか?」
「…今日は休みだし幻術超能力使うの禁止にしてるから」
「その割にはら先程幻術で逃げようとしていましたよね?」
「…あのね」
少し黙り込んだ後、マーモンの口からため息混じりの言葉が出る。
「…僕は君みたいに経験豊富なわけじゃないんだ
むしろ、こんな風にされるのは初めてなの」
「私もそんな経験豊富というわけでは…」
「経験0な僕よりはあるだろ?
あまりそこで突っかからないでよ
そんな経験0な僕が、いきなり他人に攻められてみろよ
慣れてなさ過ぎて体、強張っちゃうの
しかも、普段他人とあまり関わらないのだから尚更ね
ほら、もういいでしょ
早く離れて」
淡々と説明をしていき、マーモンは風の肩を押して離れさせようとするも風はびくともしない。
「あぁ、もう…筋肉ダルマめ」
「マーモン」
「今度はなんだよ」
「ならば、私とたくさん触れ合って慣れましょう?」
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